7/24の介護給付費分科会では、ホームヘルパーの人材難が更に加速し、昨年度の有効求人倍率が過去最高の15.53倍にのぼったとことが厚労省から報告されたが、こうした人材難にさらに拍車がかかる事態が北海道で生じている。
次世代半導体の製造を目指すラピダス(東京)が千歳市へ進出し、北海道の玄関口に数千人規模の新しい街が一つできることになる。
その工場建設は2023年9月に着工し、2027年初めの量産化までプロジェクトは急ピッチに進められることになる。その為千歳市とその周辺地域のホテルや賃貸住宅は、今現在もなかなか空き部屋を見つけるのが難しい状態になっている。
この企業進出は国と道も支援しており、北海道大学にも半導体製造に関わる人材育成や研究などを一元的に行う、「半導体窓口組織」が設置される。さらに千歳市に隣接する苫小牧市にもデータセンターが整備される可能性が高まっており、千歳を中心に札幌・石狩・苫小牧と言った道央〜道南地域全体で関連企業が集積するという、「北海道バレー構想」が実現されようとしているのである。
このように官・民挙げて巨大企業の設置・経営に向けた準備が急ピッチで進めらているのが、現在の北海道の状況である。
巨大企業が北海道に進出すること自体は歓迎されるべきだ。バブル経済の影響もほとんど見られず、アベノミクスの恩恵にあずかることもなかったほど、北海道は景気の良さに縁のない土地柄である。そんな北海道への巨大企業進出は北海道経済を活性化し、新たな可能性を生み出す源になるとして期待できるからだ。
しかしこのことは介護業界にとっては痛しかゆしである。巨大な新企業進出は、北海道全体の雇用状況に影響してくることは間違いがないからである。
既に全産業的に人手不足が深刻化している状況下で、巨大企業へ向けて様々な業界業界から人材流出が起きることが懸念されるが、介護業界からも大量の離職者が出かねないのである。
国の支援も受ける将来性のある企業が、自分の生活圏域近くにできたとき、多くの若者はその企業に就職したいと思うのではないだろうか。北海道全体から若者が、その企業に集まるのではないだろうか。
その時に、今でさえ募集に応募が少ない介護業界は、その影響を強く受けざるを得ないという懸念が生ずる。その為、従業員の高齢化も益々進行し、いずれ事業が継続できなくなる介護事業者も増えるのではないだろうか。
僕の生活圏域内にもその影響は既に大きく現れている。室蘭市の基幹産業の鉄鋼業が深刻な人手不足にあえいでいるために、そこでも人材獲得競争が激化しており、製造現場で働く人材確保のために、室蘭市内の企業では、かつて女性を雇用していなかった製造現場でも女性社員を増やしている。
当然このことは室蘭・登別地域の雇用全体に影響しつつあり、特に女性が数多く働いている介護事業者への影響は大である。
一般企業より給与が低いとされる介護事業者から、さらなる人材流出と募集に応募がない状態の拍車が懸念されるのに加え、女性の職場の選択肢が拡大していることで、技術系のセンスを持った女性は、大手鉄鋼企業の製造現場で自分の技術を生かすという選択も可能になっているからだ。
そのため室蘭・登別圏域の介護業界から、その主役となってきた女性の働き手が益々減少するのが確実なのである。
そうした中で、一般道でも2時間未満でたどり着ける千歳市に、魅力ある巨大企業ができるときに、この地域からの労働力の流出は、かなりの速度で加速するだろう。
若い世代を中心に、生産年齢人口の流出が加速度的に増す室蘭・登別地域の介護事業者は、そのための対策を練っているのだろうか。
全ての介護事業者が必要な人材を確保することなどかなわないことを認識したうえで、他と同じ人材対策は意味がないと自覚して、独自の効果ある介護人材対策を講じておかないと、顧客はいるのに事業経営を続けられなくなる。
こうした危機感を抱きつつ介護事業戦略・人材確保戦略を練り直している介護事業経営者が、この地域にどれほどいるのかが問題だ。
介護事業者が処遇改善加算の最上位加算を算定して、最大限職員の給与改善を図ることは当たり前である。それに加えて、人が張り付き定着する他の事業者とは差別化できる魅力が必要になる。(参照:他と同じ人材対策では効果は出ません。)
これができなければ顧客がいても事業が続けられなくなる。
それは介護事業経営の問題にとどまらず、地域の介護資源が不十分となり、地域包括ケアシステムという概念さえも崩壊させかねない問題だ。
僕はこのことを介護経営コンサルタントの視点からと同時に、自分が介護サービスを利用する立場になった場合の両方の視点から強く危惧している。
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