国が構築と深化を目指す、「地域包括ケアシステム」の原点は、広島県御調(みつぎ)町(※市町村合併後は尾道市)の御調国保病院・山口昇院長が、1970年代半ばから取り組みを始めていた在宅医療モデルである。
山口院長は、脳血管障害等で御調国保病院に入院して治療退院した患者の多くが、後遺症による身体機能の低下などで短期間で在宅生活が困難になり、再入院を余儀なくされる現状を憂い、そうならないように退院患者に対して、病院から看護師やセラピストを患者宅に派遣し、後遺症による身体低下を防ぐ取り組みを推進した。
それはまだ介護保険制度もなく、訪問診療や訪問看護もない頃の話であり、極めて先進的な取り組みであった。そしてこの取り組みを山口院長は、「出前医療」と呼んでいた。
それがやがて御調町の保健師派遣事業とも相まって、保健・医療・福祉・介護の一体的サービスに繋がっていったわけである。
当時の御調町でこのシステムが成功した背景には、山口院長が医師の傍ら、町の保健福祉部長を務め、医療と福祉政策が一体的に提供できる基盤があったことが大きかった。
それをお手本にして、国全体でこのシステムを創り出そうとしたのが、介護保険制度施行以降2代目の老健局長となった中村秀一氏である。
中村氏の前職は医政局長であり、その際には日本医師会と渡り合って、戦後初めて診療報酬をマイナス改定させたという実績がある。そのことから、「剛腕局長」という名をほしいままにして、颯爽と介護保険制度を引っ張る老健局のトップに立ったわけである。
その際に立ち上げた高齢者介護研究会(座長=堀田力・さわやか福祉財団理事長)が「2015年の高齢者介護」という報告書をまとめ、その中で国の資料文書として初めて「地域包括ケアシステム」という言葉が載せられている。
この報告書は2003年にまとめられているので、それからちょうど20年が経ったわけである。その現状と課題はどうなっているのだろうか。
旧御調町方式は、山口院長という強いリーダーシップを持つ人を中心に、十分にお金をかけて町を挙げて取り組んだことで成功したシステムである。
国はこれを市町村に丸投げする形で宝利不出している間もなくはない。丸投げされた市町村にしても、このシステムの中核となる地域包括支援センターの運営を直営で行わずに、委託法人に丸投げしている地域も多い。
山口院長に変わるようなリーダー・旗振り役も不明瞭なまま、必要とされる多職種協働は、所属の異なるそれぞれの専門職のボランティア精神に頼っている現状も垣間見られる。
その為、地域包括ケアシステムという概念はあっても、実態が存在していないという地域も多い。僕の住む登別市などはその典型だろう。でもそれでは駄目なのである。もっと地域住民のニーズに沿った各種サービスを有機的につなげて、地域住民の福祉の向上を図るシステムを創り上げなければならない。・・・そのために必要なことは何か。
このことに関連して、6月1日(木)東京ファッションタウンビル(TFT)東館9階で行われる公共ICTフォーラム東京において、10:00〜11:40「地域包括ケアに向けた圏域行政と地域福祉の展望と課題」をテーマに講演を行う予定になっている。

昨日までの週末2日間は、この講演のスライドづくりに時間を費やしていた。
2024年度の制度改正の主要テーマの一つとして、「地域包括ケアシステムの深化・推進」が掲げられており、そこでは主に都市部において多くの高齢者が、介護が必要となりやすい年齢層に達することに伴い、介護ニーズも急増することが見込まれる一方、既に高齢化のピークを迎えた地域では介護ニーズがピークアウトすることが見込まれるなど、地域によってサービスの利用状況に変化が生じる可能性があると指摘したうえで、その対策が重要であるとしている。
既存のサービス基盤の適切な活用や住まいの確保、医療・介護が有機的に連携し、住み慣れた地域で医療・介護を継続して受け続けることができる体制の整備、人材の有効活用に資する介護DXの推進、地域の総合事業や介護予防事業の推進、地域共生社会の実現等々の課題に具体的にどう対応するのかを明らかにする予定である。
このフォーラムは、どなたでも無料で参加できる。会場ではたくさんのブースで様々な介護関連情報を発信する関連企業が数多く出展しているので、介護事業者必見である。
3年ぶりに開催となることで、会場で親しい仲間と懇談する機会でもある。是非会場までお越しいただければありがたい。
なお、会場にお越しになれない方は、その2日前の5/30に横浜からオンライン講演を配信する。このオンライン講演のテーマは、「令和6年度介護報酬改定の展望について 〜改正前にやっておくこと〜」としており、こちらを参照の上、お申込みいただければ幸いである。
それでは画面を通じてか、あるいは東京ファッションタウンビルの会場で、どちらかでお愛しましょう。
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