もしあなたが組織内部で、他の従業員が利用者を虐待している事実を把握したらどうしますか?
利用者や家族が虐待を受けたという訴えをしているのに、それを組織内で握りつぶして、訴え自体をなかったことにしようとしていることを知ったらどうしますか?
普通の感覚ならそうした事実を知った場合、証拠となる記録等を添えてしかるべき機関なり、窓口なり、担当者なりに訴えると思います。
しかしそんなふうにして事実を告発して改善しようとし、証拠となる内部資料を持ち出して公益通報したのに、それが就業規則違反だとして懲戒処分を受けたとしたら・・・あなたはどう考えますか。
そのような懲戒処分は、単に事実を隠蔽して知られたくない事実を闇に葬ろうとする行為だと憤りませんか。臭いものにふたをして終わらせようとする卑劣な行為だと思いませんか?
しかし実際にそのような行為が、京都市という公的機関を舞台に起こっていたのです。
事件の発端は8年前に遡ります。2015年に京都市の児童相談所に勤務していた男性職員が、京都市が性的虐待に関する相談を放置していることを把握し公益通報しました。
もっと具体的に書きます。通報した男性職員は当時40歳代で、児童相談所に勤務していました。そこに市内の児童養護施設の元施設長が入所者の少女に性的虐待をしようとしたという相談がもたらされたのです。ところがその相談が表ざたにされることなく、児童相談所内で放置されてしまっていました。そのことに気が付いたこの男性職員は市が設けた外部の窓口に通報したものです。
ところが京都市は、この職員が通報するにあたり相談記録を自宅に持ち出したことが就業規則違違反に当たるとして停職3日の懲戒処分としたのです。
これに対し懲戒処分を受けた職員が、「資料の持ち出しは『公益通報』を目的として行われたものだ」としたうえで、「処分は重すぎる」として訴訟を起こしたところ、2021年1月、最高裁判所で原告の訴えが認められ、当初の「停職3日の懲戒処分」という処分は取り消されました。
その際の判決主文を参照してください。
ところがこの判決が出された後の京都市の更なる判断が物議を呼びます。
京都市は処分について改めて検討した結果、内部資料を自宅に持ち帰って保管し、その後、無断で廃棄したことは市の管理基準に違反するとして、2021年4月13日付けで男性職員を懲戒より軽いけん責の処分としました。
改めて処分を受けたことについて男性職員は「京都市からは停職の懲戒処分が誤りであったとの謝罪は一切なく、また苦しめられるのかと思い、納得がいきません。資料の持ち出しは隠蔽が行われるのではないかなどの不安を抱き、自宅以外に適切な保管場所を思いつかなかったためです。廃棄については、了解を得たものと理解していましたが、判決で軽率と指摘されている点については反省しています。犯罪行為を見逃すことはできなかったので、公益通報をしたことへの後悔は今もありません」とし、市から受けた懲戒処分は違法などとして、市に計約620万円の損害賠償を求めました。
その訴訟の判決が先週27日、京都地裁であったのです。
本裁判における判決で裁判長は、違法な懲戒処分で男性が精神的苦痛を受けたとして、市に約220万円の支払いを命じました。そのうえで改めて市の処分の違法性を認定しています。処分がなければ、男性職員が最高裁まで訴訟を続ける必要はなかったとして、処分取り消し訴訟にかかった弁護士費用と慰謝料の支払いも命じています。
このように裁判結果は、原告である告発者の勝訴という形で終わりました。それは京都市の懲戒処分が不当であると裁判所が断罪したという意味でもあります。
そのことはとても良かったと素直に思います。正義がまかり通った判決と評価もします。不正を公にするために書類を持ち出すことまで懲戒対象になるなら、不正は隠し放題になりますから・・・そうならなくて本当に良かった。
しかしこれですべて、「めでたし・めでたし」ということになるのでしょうか。終わりよければすべて良しという結果だと言えるのでしょうか。
僕にはどうもそう思えません。なぜなら原告は自ら所属する組織を訴えて、勝訴したことによって、組織自体にダメージを与えたとのレッテルを今後も貼られ続けられる恐れがあるからです。
内部告発者を護ろうとするどころか、懲戒処分にしようとした組織の中で、内部告発を行った人が健全に所属し続けられるでしょうか・・・。昇進などに影響はないでしょうか?
告発者が今後定年まで、京都市という組織の中で、いわれのない中傷を受けることなく勤め続けられるかと考えたとき、それは決して保障されていないし、場合によっては茨の道を歩まねばならないのではないかと危惧します。
そんな僕の危惧が、取り越し苦労に終わることを期待します。
それにしても内部告発者をつぶそうとするかのような、今回の京都市の対応には憤りしか感じられません。その民度の低さ、醜い隠ぺい体質をどうにかしろと言いたくなります。
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