介護事業における虐待防止をテーマにした講演依頼を受けることがある。
おかげさまで、こうした講演も実務に生かすことができるなどと高評価を頂いており、このテーマの講演依頼は何年も途切れることがない・・・。
しかしそれはある意味喜ぶべきことではなく、相も変わらず介護事業における虐待事案が無くなっていないという意味でもある。
できることなら一日も早く虐待とは無縁で、その防止のための研修がいらない業界になってくれることを切に願うものである。
虐待防止研修の難しいところは、虐待が罪であるとか、虐待をしてはならないということは、すべての人がわかっているという点である。わかりきったことを改めてレクチャーしても意味がない。
虐待は悪であり、罪であること自体を否定する人がいるわけではないのに、虐待がなくならないのは何故かという点に触れないと、問題の本質解決にはならないのだ。
感覚麻痺から虐待に至るケースは、本人が虐待をしていることに気が付かないケースがほとんどだ。そして虐待しているその己(おのれ)の醜い姿に気が付いていないのである。そうした感覚麻痺には必ず誘因が存在するのだ。そこを明らかにしないと虐待当事者に罪の意識のない虐待はなくならない。
それをわかっていない、「当たり前のことしか言わない」講師が存在することが、虐待防止の実効性が上がらない一つの要因ではないかと思ったりする。・・・そういう意味では、本当に虐待をなくして介護事業を経営するつもりがあるなら、きちんと実務に生かせる虐待防止講演ができる講師選びが重要であることを理解してほしい。

利用者虐待の加害者が、職場の中で要注意人物であるとも限らない。
例えば先週5/11に、埼玉県飯能市の特別養護老人ホーム「吾野園」の職員、加藤肇彦容疑者(48)が、食堂で利用者を蹴るという暴行の疑いで逮捕された事件もしかりだ。
食堂の防犯カメラには容疑者がテーブルの前にいた入所者を、背後から車いすごと前に蹴る様子が写っていたそうである。残念なことに被害者は暴行を受けたあと体調が悪化して意識を失い、およそ4時間後に死亡してしまった。(※その後の調べで、結果死因は強い衝撃を受けたことによる内臓からの出血だったことが明らかになっており、容疑もいずれ業務上過失致死に切り替わる可能性が高い)
警察の調べに対し容疑者は、「忙しいときにいろいろ頼まれて腹が立った」と、容疑を認めているそうである。
利用者からものを頼まれるのは本来業務である。よってそんな理由で暴力をふるうなんてあり得ないし、そんな理由で暴行に至る資質自体が介護に向いていないのではなかったかと思うのが普通だが、容疑者の勤務態度などについて理事長によると、『勤務態度は良好。一生懸命やっていた』と評価している。
虐待とは結びつかない勤務態度と思われていた職員が、テレビカメラに映る場所で、利用者を死に至らしめるほどの暴行に走っているのだ。
では何が虐待の原因に結びついていくのか・・・感情の問題だから、「アンガーマネジメント」の訓練によって怒りの感情をコントロールする教育をすべきなのか・・・。それも違うと思う。「価値観が変化する自分を覚知するために」で書いているように、自己覚知という基盤のないアンガーマネジメントは、技術論だけ頭でっかちになるだけで、実際のサービス場面では使えないものになって終わるのである。
実効性のある虐待防止の徹底した教育が求められるが、教育指導そのものの方向性を間違っている講師が多いのも問題なのである。
そうした憂うべき状況が存在する介護業界の深い闇は、どうしたらなくせるのだろう。・・・昨日も札幌の特養で利用者に対する暴行が発覚し、高橋渉(27歳)という男性介護職員が逮捕されている。
容疑者は9日3時半ごろ利用者の腹部をけるなどしてけがを負わせたとのことで、その後すぐ事件が起きた特養を退職している。本件は取り調べ中で、他にもこの容疑者による虐待暴行などがあった可能性が指摘されている・・・。
それにしてもこのような暴行事件が続くと、益々特養の信頼が揺らぐことになる。こうした虐待事件が相次ぐ状態で、介護職員の待遇改善をと訴えても説得力がなくなることも懸念材料だ。
こうした事件が繰り返される限り介護労働は、「そんな職業の対価は平均労働賃金より低くて当たり前。底辺労働として、存在さえしておればよい。」という評価を受けかねないのである。
介護を職業としている方々は、そうした側面からもこの問題を捉え、自分の足元から虐待がないサービスの場づくりをしていただきたい。
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