昨日、北海道釧路地裁帯広支部で一つの判決公判が開かれた。

そこで判決が言い渡された被告とは、昨年11/4、十勝管内音更町で72歳の妻の腹部を包丁で刺すなどして失血死させた夫(72歳)であった。

下された判決は、懲役2年6カ月・執行猶予5年(求刑懲役3年)というものだった

実はこの殺人事件とは・・・妻に頼まれて殺害した嘱託殺人罪であり、「苦渋の決断に至った経緯や動機には同情する余地がある」として執行猶予のついた判決につながった。
裁判
事件要旨は下記の通りである。
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夫婦は一軒家で2人暮らしであった。被害者である妻は1999年、抑うつ状態と診断されていたが、昨秋以降、症状が悪化し、包丁で自身を刺すよう促したり、ネクタイで首をつろうとしたりと自殺行為を繰り返した。

夫は2018年に脳卒中を発症し、右半身にまひがある中で妻の介護をしていた。夫は証言台で、「妻は優しいから、私が病気になりストレスをため込んでしまった」と述べており、妻は精神を病んでいる自分を、障害を持つ夫が介護しなければならない状態となったことが、さらに心の負担となって、自分さえいなければ夫も救われると思い込んで死を求めたものと思われる。
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制度ですべての人を救うことは不可能である。そして制度の光をあまねく地域へ届くべく活動する地域包括支援センターなどの機能にも限界がある。地域のすべての介護問題を発見・解決することは不可能である。

だからと言って、「仕方ない」と言って、こうした事件から教訓を得ようとしなければ、何も変わらない。悲劇は繰り返されるだろう。

そうしないように、こうした事件の経緯を振り返って検討することは必要だと思う。それは誰かの責任を問うのではない。

例えば、周囲の人々が何かできる余地はなかったのか、あるいは必要な社会資源をつなげる方法はなかったのかを検討する必要はあるだろう。

本ケースでは被告となった夫が2018年に脳卒中を発症している。右麻痺になっている状況をみると、この時点で入退院が行われたと想像する。すると退院支援の最中に、二人暮らしの家庭に残されている妻に、抑うつ状態の既往があることがわからなかったものだろうか。

もしわかったとしたら、妻による夫の介護は難しいだろうと想像できる。夫には介護が必要ではないとしても、夫の状態変化で妻のストレスが増して、抑うつ状態が悪化することも容易に想像でき、何らかの介入が必要だと考えられたのではないだろうか。

そこで支援介入ができなかったとしても、その後、問題発見につながる可能性が高い大きな事象が起きている。

それは妻が自殺未遂をして病院に緊急搬送されたことである。この時点で夫婦二人世帯に隠れていた問題をあぶりだす機会はあったはずだ。

この自殺未遂という明確なSOSに気付き、自殺のリスクが極めて高い状態にあったことを問題視して、専門家が介入する余地はなかったのだろうか。そのことが今後検討される必要があるだろう。

そのようにして自らSOSを発することができない人に対する、「アウトリーチ」の方法もさらに検討されなければならない。発見できる福祉は、実現不可能ではないはずだ。

当事者が自ら救いの手を差し伸べてほしいと訴え出られるような方法・・・何か大変そうだと思われる人に気が付いた人が気軽に相談できる窓口。地域包括支援センターが、より発見できる機関になり得る方策。居宅介護支援事業所の介護支援専門員に、こうしたケースがつなげられる体制。・・・そうした事柄を地域ケア会議等で話し合うことも必要ではないか・・・。

どちらにしても、夫婦の最終的な愛の形が、「嘱託殺人罪」で幕を閉じる社会はあまりにも哀しい。

そうならない社会を目指して、私たちができることはないかを考え続ける必要があると思う。
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