僕は今、神戸市内のホテルの一室で、この記事を更新している。12:45〜このホテル内で行われる、一般社団法人 兵庫県老人福祉事業協会主催・令和4年度施設長研修会で講演を行うための神戸滞在である。
これから会場に出かける予定になっているが、昨日僕が管理する表の掲示板に、「ケアマネが利用者の金銭管理をする件について」というスレッドが立ち上げられたので、その回答を補足するための解説記事を、今日のテーマとしてここに書いてみようと思う。
さてそこで本題。
居宅介護支援事業所の介護支援専門員は、利用者の暮らし全般に関わる相談援助業務を担っている。
そのためプライベートな問題にも踏み込んでアドバイスを求められることも多い。その延長線上に、居宅介護支援事業に求められるケアマネジメント業務の範囲を逸脱して、介護支援専門員の仕事とは言えないような役割もしくは仕事を求められて困る場合がある。
例としては、生活費の金銭管理を求められる場合があるという。利用者自身が自分の金銭管理能力に不安を持って金銭管理を要望されたり、利用者の家族から、利用者自身の浪費癖を懸念して金銭管理を依頼されるなどがケースとして報告されている。
しかし居宅介護支援事業所にも、介護支援専門員個人にも、利用者の金銭を預かって管理する権限も、法的根拠も持たされていない。よって決してそのような要請・要望があっても受けてはならない。
なぜなら善意の金銭管理であっても窃盗罪となり得るからである。
もともと利用者の金銭を管理する権限のない介護支援専門員が、光熱水費などの支払いのため、一定期間利用者のお金を預かっていた最中に、利用者が急死することを想定してほしい。
この場合、利用者の意思確認ができないため、遺族が担当ケアマネが金銭を預かっていた行為を、利用者の金銭をだまし取ったとみなすことは十分に考え得ることである。
そうなった場合、業務上の立場を利用した金銭搾取ではないという証明は困難となる。
※画像は今僕が泊まっている部屋の窓から見えたメリケンパークの夕日。
そうならないように、利用者自身に紙ベースで金銭預かり委任状などを書いてもらっていたとしても、それは法的には無効でしかなく、なんの免罪符にならない。
なぜならお金などの財産の管理を他者に任せる場合は、口約束や簡単なメモでのやり取りではなく、「財産管理等委任契約」が必要になるからだ。これは公証役場で公正証書を作成する必要があるのだ。
勿論、家族や親類等が善意で個人的に金銭管理を行う場合には、本人の委任状があればできることで、そのような契約が必要になることはない。
しかし居宅介護支援の利用者に対して、担当介護支援専門員が金銭管理を行うということは、居宅介護支援の一環もしくはその延長として、(金銭を徴収していなくとも)継続反復行為としての「業:なりわい」とみなされるために、契約行為が必要となるのである。
なお財産管理等委任契約で可能になることは以下の通りである。
(財産の管理)
・銀行でのお金の引き出し・支払い等
(療養等の身上監護)
・入院手続きや介護サービスの契約等
よって判断能力がある利用者から、金銭管理の要望がされた場合、ケアマネがしなければならないことは、利用者の判断力に照らして金銭管理をし得る社会資源を探して、それを利用者に結びつけることである。
例えば判断能力があり、契約内容が理解できる程度の軽度の認知症もしくは認知機能障害がある利用者の場合なら、市町村社協が窓口となっている「日常生活自立支援事業」が利用できる。
この事業を利用することで下記の行為が可能となる。
・福祉サービスの利用などの手続
・行政窓口などでの手続
・預貯金等の日常的金銭管理
・生活状況の観察
・書類等の預かりサービス
任意後見制度も利用できる可能性がある。任意後見制度は自分の判断能力が衰えた場合を想定して、自分が判断して信頼の受ける人に財産等の管理を任せる制度であり、判断力が低下した際に効果が発生する契約であるが、その制度の中には(即効型)というものがある。
即効型とは、判断力が少し低下したが、契約内容が理解できるうちに契約して、その時点から効果が発生するものであり、金銭管理能力が衰えた人の場合、有効に作用することも多い。これも公正証書で契約を行う必要がある。
このように居宅ケアマネには、利用者とどのような社会資源を結びつけるべきかという知識が必要になるが、それはれっきとしたケアマネジメントスキルといえる。その知識を備え置くための日々の勉強は、介護支援専門員のスキルを保つために必要不可欠であると考えるべきだ。
(※特養等の場合は、「暮らしの場」として、ケアマネジメント業務以外に、利用者に対する直接的な身体介護や生活支援を行わねばならない場であり、認知症の方などの金銭管理が必要になるために、厚労省通知で施設という組織全体で(個人ではなく)金銭管理を行うことができると通知されている。そしてその場合は、金銭管理規定を作成して、それに基づく管理が求められ、運営指導ではその状態をチェックされることになっている。)
なお病院予約や、ケアマネジメント業務の一環とは言えない安否確認等を求めらえるケースもあると聞く。この場合、法律に照らして介護支援専門員の業務ではなく、かつケアマネジメント上やむを得ず必要とする行為ではない場合で、ケアマネが行っても法律に触れないために、やろうと思えばできる行為があるとしたら、この場合は運営規定に「保険外サービス」として定め置き、別途料金を徴収することを検討するべきではないかと思う。
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居宅のケアマネをしている頃、同様に「あんたが預かって欲しい」と懇願されたことがありました。もちろん、それに対しては丁重にお断りし、自治体の日常生活支援事業へとつなぎました。masaさんがおっしゃるよう、ケアマネジャーの立場で出来ることとしてはいけないことの分別が「その人のことを一番分かっているから」とか「信頼されている」といった、第三者から見て意味のなさない「業務ではないことを勘違いして」しまう人は少なくありません。「出来ること」と「していいこと」の分別は専門職としてもたねばならないと思います。
昨日の会場のホテルのモーニング、召し上がられましたか?ここのモーニングは、本当に素敵でゆったりと味わい、過ごせるひと時です。食べておられることを願いつつ。
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