昨日まで長い年末年始の休暇を取れていた人も居るのかもしれないが、松の内も過ぎ、成人の日を含めた3連休も終わり、そろそろ正月気分から抜け出して日常を取り戻さねばならない時期である。

僕は3日の午後から仕事を始めており、オンラインを通じた講演配信も、新年早々から始まっている。それに加えて最近は会場研修会も徐々に増えているので、受講者と対面して行う講演も新年早々から予定が入っている。

今年の最初の出張は1月23日(月)の神戸市。神戸メリケンパークオリエンタルホテルで行われる、「兵庫県老人福祉事業協会主催・令和4年度施設長研修会」において、「介護の質を落とさず生産性を向上させるには」というテーマで講演を行う予定である。

このテーマは事務局が設定したものだが、その実現は簡単ではなく、なかなか難しいテーマであるともいえる。

年明けすぐに厚労省が、介護生産性向上総合相談センター(仮称)という生産性向上に関するワンストップ相談窓口を、来年度から都道府県ごとに設置する方針を示した理由も、生産性向上に関して今のところ十分な成果が出ていない事実を表しているともいえる。

そもそも生産性とは、どれだけの資源(ヒト・モノ・カネ)を投入した結果、どれだけの成果が得られたかという意味である。人を減らしても、そのために過度に費用を支出してしまえば、生産性の向上にはならない。その匙加減が重要になる。

人によっては、業務効率化=生産性の向上というイメージを抱いている人もいるが、それは間違いである。業務効率化は、生産性向上に寄与する施策であると言っても、それは選択肢の1つに過ぎない。

ところが人手が足りない介護業界では、業務を効率化させて人手をかけない点に偏った生産性向上議論がなされており、これが介護サービスの品質劣化や、利用者の人権を無視した作業労働の繰り返しに繋がっている。

介護DXが、配置基準の緩和を目的に語られる状況は最悪かつ下劣の極みである。
生産性
例えば、「介護事業の生産性向上」を前面に出して、事業経営を行っていた人は誰だろうと考えてみたときに、その危険性が理解できるのではないか。

かつて岡山に本部を置いて、日本全国で介護事業を展開していたメッセージという介護事業者の橋本俊明会長は、いくつもの研究論文などを発表しているが、2007年に介護雑誌に寄稿した「介護の生産性向上に向けた工夫ー『非定時介護』に関する調査とその意義」では、そのことを詳しく解説し、メッセージがいかに先進的・積極的にその取り組みを行っているかが解説されていた。

その基盤となっていたのがメッセージが開発したアクシストシステムであり、その基礎とされたライン表という15分刻みの作業工程表によって、従業員は機械的作業を分刻みで強いられた。

しかしそのことで何が起こったのかを振り返ってほしい・・・。

2014年11月に救急救命士の国家資格を持つ今井死刑囚が、有料老人ホーム「Sアミーユ川崎幸町」で3人の利用者を転落死させた、「川崎老人ホーム連続殺人事件」をはじめ、複数の職員が利用者に暴行・暴言を繰り返していたことが明らかになった。

しかも従業員の不適切対応は、全国のアミーユで行われていたことが明らかになり、メッセージは介護事業を損保会社に売り渡さざるを得なくなった。

その一連の事件の最中に、同社の労働組合がSアミーユ川崎幸町での転落死の逮捕報道に際しての声明/東京北部ユニオン・アミーユ支部 という声明文を出している。

そこでは生産性の向上の名のもとに行われた人員削減=合理化が、いかに過酷な状況を創り出して、従業員を精神的に追い詰めていたのかが赤裸々に示されている。

このように感情労働である介護労働を、オートメーション化して作業効率を上げようとすることは無理難題で、どこかにひずみが生じてしまうのである。しかもそのひずみとは、対人援助におけるサービス対象者に向かうものにならざるを得ず、利用者の身体や精神を著しく傷つけかねない問題となって表出する。

それは介護事業経営自体を危うくするのである。

恐ろしい事に、従業員の心を壊し、心を闇が創った刃が利用者に向けられた事件の元凶となったアクシストシステムとライン表を、そのまま使っている大手介護事業者があると聴く・・・。いつか来た道を、また繰り返さなければよいのだが・・・。

そもそも介護事業の生産性低下の最大要因は、数合わせの人員採用と適性教育なき配置であり、有能な人材を貼り付けて、適正教育によって人材人財に育っていくような介護事業者では、自ずと介護労働の生産性も高まるのである。

神戸ではこの点を強く意識した話をしようとして、講演プロットを立てたうえで、現在講演スライドを仕上げている最中である。この講演は会場とオンラインの両方で受講できるハイブリット講演講演となっており、両方の受講者の方にはその点を注目してほしいと思う。

それでは兵庫県老人福祉事業協会の皆さん、23日は神戸メリケンパークオリエンタルホテルでお愛しましょう。

※「弁護士 外岡 潤が教える介護トラブル解決チャンネル」に、僕のインタビュー第3弾動画がアップされています。インタビュー3は、『科学的介護・SNSを活用した情報発信・優れた人材確保の秘訣についてです。』となっています。約13分の動画となっていますので、是非ご覧になってください。

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