2020年6月に、「労働施策総合推進法」が施行され、大中小企業という規模を問わず、事業主の責務としてハラスメント対策が義務付けれられた。
このことは、精神障害で労災支給が決定される人の数が増え続け、その多くがパワハラに起因したメンタルヘルス不調であるとが背景となっているし、「労働施策総合推進法」が、通称パワハラ防止法と呼ばれている所以でもある。
そうした社会情勢もあって、2021年度の介護報酬改定時に介護事業者においても、ハラスメント対策を強化することが求められた。そして全ての介護サービス事業者に適切なハラスメント対策を求めるための省令改正が行われた。
改正内容について当初は、パワハラ・セクハラなど介護事業者内のハラスメント対策を講ずる方向で考えられていた。
しかし介護事業の場合、特に訪問系サービスで、従業員側や事業者側に非がないにもかかわらず、利用者やその家族から怒鳴り散らされたり、恫喝されるなどの被害が目立っており、実際に利用者が刑事責任を問われる事件も起きている。
2019年1月には大阪市で、集合住宅の一室にひとり暮らしをしていた53歳の男性宅を訪れた70歳の訪問介護員を、利用者である男性が殴ってわいせつ行為をした後、何度も踏みつけるなどして死亡させたという事件が起こっている。
本件はカスタマーハラスメントを通り越した凶悪事件であり、カスタマーハラスメント問題とは別問題と捉える向きもあるが、日ごろの利用者の理不尽な要求に耐えたり、ヘルパーに我慢を強いるだけで対策を講じていないと、行為がエスカレートして考えられない事件につながることもあるという意味で例示させていただいたものである。
訪問介護事業所は、介護保険サービスのみならず障害者福祉サービスの居宅介護(介護保険の訪問介護に該当するサービス)も行っている事業所が多いので、これは深刻な問題である。
また先日は、飼い猫2匹を2019年に入院中に無断で保健所へ引き渡されたとして、山口市の80代女性が同市と当時のケアマネジャーに1匹当たり月5万5千円の損害賠償を求めて訴訟を起こしたというケースもある。幸いその訴訟は請求棄却され被告勝訴となったが、利用者の理不尽な要求が放置できないレベルに達することが増えているように思える。
事件となったケース以外にも、訪問介護員の被害感情は少なくなく、介護関連労働組合のアンケート調査では、回答者の7割以上のヘルパーが、利用者もしくは家族からの暴言や暴行などのパワハラを受けた経験があるという数値も過去に示されている。
そのためこうしたカスタマーハラスメントへの対策も急務だという声が高まった。
そして2021年の省令改正では、『併せて、留意事項通知において、カスタマーハラスメント防止のための方針の明確化等の必要な措置を講じることも推奨する。』という文言が加えられたという経緯があるのだ。

しかし前述したような事件や被害を考慮すれば、介護事業者においては、「カスタマーハラスメント対策」は推奨しているような悠長な問題ではなく、早急なる対策を講じておく必要がある問題と言えそうである。
ところでハラスメント対策について、社労士などの専門家に講演依頼した場合、多くは職場内のパワハラ・セクハラ対策に終始する内容で終わることが多い。カスタマーハラスメントに触れる人は少ないのだ。
というのも介護実務を行った経験のない人は、カスタマーハラスメントを受けた経験や、カスタマーハラスメント対策を行った経験がほとんどないからである。
でもそれは介護事業者のニーズを充足させる講演とは言えない。ハラスメント対策を学ぶ際には、必ず講師に、「カスタマーハラスメント対策」を盛り込むように依頼すべきである。
この点、僕のハラスメント関連講演は、そのこともしっかり盛り込んで話すことができるので安心して講演依頼してほしい。僕自身が過去に受けたカスタマーハラスメントや、僕の経営する社福法人内で従業員が受けたカスタマーハラスメントに対応してきた経験から、その対策についてお話しすることができる。
※クレーム対応の例としては、「クレームは頭を垂れるだけで解決しないこともある。」を参照願いたい。
先日は岩手県いわきケアマネ協会に向けたオンライン講演でもその話をしたし、来年2月には大分県大分市地域包括支援センター職員向け研修として、「介護事業におけるハラスメント対策を考える」という講演をオンライン配信する。
そこではしっかりとカスタマーハラスメント対策に触れる予定であるが、単に利用者や家族に毅然と対応することを強調するのではなく、我々の事業が人の暮らしを護るための対人援助であるという本質を忘れない対策が必要だという視点も盛り込んでいる。
ハラスメント対策は毅然とした対応が必要で、理不尽な要求が続けられた場合には、「契約解除」という手段も必要になることがある。
しかし毅然とした顧客対応が、介護難民を生み出しては本末転倒であるという考え方を持っていないと、毅然とした対応がいつの間にか、利用者や家族にとって、『上から目線の無礼な押しつけ』になってしまう恐れがある。
それは私たち福祉のプロたる者の取るべき態度とは言えないのである。毅然と横暴は紙一重であることを忘れてはならないと思う。
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