大阪市の老健施設が虐待認定を受け改善勧告を受けた後も、繰り返し虐待を行い改善意思がないとして、運営停止処分を受けた。
運営停止とは、一定期間の全指定事業の活動が停止されることだ。
介護保険施設で過去に事業の一部停止処分(新規入所者受け入れができない)が下された記憶はあるが、全部停止された事例はあっただろうか?どちらにしても前代未聞の重い処分だ。
このような重い処分が行われた経緯を報道記事から確認してみよう。以下に報道記事を転載する。
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(2022/11/15 09:00 朝日新聞デジタル配信記事より)
入所者を殴るなど職員による虐待があったとして大阪市は14日、同市城東区の医療法人史隆会(出口晃史理事長)が運営する介護老人保健施設「幸成(こうせい)園」に対し、介護保険法に基づき、来年3月1日から半年間の運営停止にあたる処分(許可・指定の全部効力の停止)にしたと発表した。
市によると、今年5月、施設職員や入所者家族からの通報を受けて調査を実施。今年働き始めた男性の介護職員1人が、80代以上の女性入所者計6人に対して殴ったり、胸を触ったりするなどしたという証言を確認した。職員はすでに退職している。市は大阪府警に相談したという。
施設では2020〜21年にも、入所者への身体拘束や別の職員による暴言などがあったとして、市は計3回の虐待を認定。21年11月には改善勧告を出していた。今回の虐待を受け、市は施設管理者に改善の意思がないと判断し、運営停止にあたる処分を決めた。
入所者62人(10月1日時点)は、来年2月末までに施設を出る必要がある。(転載ここまで)
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前述したように指定の効力の全部の停止(介護保険法77条1項各号等)とは、一定期間の事業活動の全部が制限されるという意味で、老健施設としての運営ができなくなるということだ。
そのため今入所している利用者は、運営停止の効力が発効される来年4月までに退所しなければならない。当該老健は運営停止処分期間経過後は事業を再開できる(※再申請は不要)というものの、経営的には大きな痛手だろう。
このような重い処分が下された背景というものは必ず存在するはずだ。現に入所してる利用者が、ほかの行き先を探さねばならないような処分が、軽々しく行われるはずはないからだ。
それほど過去から現在に渡る虐待認定行為がひどいものであったということだろうし、それに対して改善に向けた真摯な態度が皆無だとみなされたのだろう。大阪市の怒りが処分に直接現れているかのようだ。
それにしても3度にわたる虐待認定と、それに伴う改善勧告を受けた後も、繰り返される非人道的行為・・・たまたま態度の悪い職員が潜んでいたという問題ではなく、この老健の構造的な問題がそこに潜んでいるのではないかという疑念がぬぐえない。
改善勧告後の職員指導が行われていなかった可能性も高いが、どちらにしても虐待とはっきり認定される行為が長期間繰り返されているということは異常事態であり、実効性のある職員教育がまともに行われていなかったであろうことは容易に想像がつく。
特にサービスマナー意識を向上させるための取り組みは皆無だったのではないだろうか。そうでなければ複数の利用者に対し、「殴ったり、胸を触ったりする」行為がいとも簡単に行われるわけがないからだ。
老健施設は医師が経営し施設長も務め、医療機関での看護経験の長い職員が数多く雇用している。そのため医療機関における患者見下し体質にどっぷりつかって、利用者へのタメ口対応が当たり前のところも少なくない。(※筆者が1年間務めた、北海道千歳市の精神科医療機関を母体とする老健もそうだった)
そのような体質にメスが入らないまま、利用者がお客様であるという意識も持つことができず、上から目線でマナーのない対応に終始しているところも少なくない。
その意識を変えないと、運営停止という事業経営を左右しかねない処分につながることが、本事件で明らかになったわけである。
老健関係者のみならず、すべての介護関係者が本件を教訓として、改めて介護事業におけるサービスマナー教育の必要性を自覚し、マナーあふれる対応でホスピタリティ意識を全従業員に芽生えさせて、適切かつ高品質な介護サービスを提供する土壌を作っていただきたい。
勘違いしてはいけないのは、虐待のない介護事業が優れているわけではないということだ。虐待を行わないことは、当たり前のことでしかなく、対人援助サービスが社会に求められている役割とは、関わる利用者の暮らしの質を向上させることなのである。
そのためには、よそよそしさを恐れるより、無礼で馴れ馴れしい対応で、利用者の尊厳や誇りを奪い、心を殺してしまうことを恐れる考え方が必要である。
介護は、目の前の人を幸せにすることで、その背後にいる家族や親せきや知人が皆、どこかでそのことを喜んで幸せになてくれる仕事だ。介護はそんなふうに、「しあわせの樹形図」を描くことができる仕事であるが、タメ口対応をはじめとした、サービスマナー意識のない対応は、哀しみの樹形図を無限に広げる元凶になりかねないという一面もある。
大阪の老健では、「哀しみの樹形図」しか描けない人間が、暴力で利用者を支配していたのである。
その元凶となるものが、サービスマナー意識のない、日常の利用者対応であったということに、強い危機意識を持ってほしと思う。・・・すべての介護関係者が、そう感ずるべきだと思う。
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数年間、上司に該当職員に対して改善するように求めてきたが、一向に指導することなく時間ばかりが過ぎてしまいました。
施設の自浄作用に期待してましたが、全く改善の兆しが無いので市に虐待の通報をしました。
まともな職員と利用者の心が壊されてる現状に憂いる日々です。
masa
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