私たちが仕事をして報酬を得るサービスは介護保険法に則ったサービスです。よって法令ルールが適用されるのですから介護保険制度の詳細を知ることは必要不可欠なことです。
仮に保険外サービスで大きな収益を挙げているとしても、主たる業務は保険給付サービスに関する業務であり、法制度と切り離して保険外サービスを所管することはできません。そのため制度に精通することは保険外サービスを続ける上でも大事なことです。
当然、その制度は持続可能性を高めるために変えられていきますので、その議論内容や方向性を知る必要もあります。
しかしいくら制度に精通しても、自分以外の他者の暮らしに寄り添う対人援助サービスでは、「人間理解」という根底がなければ、私たちが寄り添う人を救うことはできません。
制度論を好む傾向のある人に対しては、それも良いのだけれど、もう一つ大事なことを忘れないでほしいと言っておきたいのです。
制度の光をあまねく人々に届けられるのは、制度に精通するだけではなく、人を理解しようする態度や、対人援助のプロとしての確かな援助技術が何よりも求められるのだということを、自分自身の戒めとして常に考えておく必要があります。
そのような思いを持たざるを得ない出来事が起きました。
介護事件ともいわれるその一報が届いています。
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(11/3 (木) 13:29発ANNネットニュースより転載)
2日夕方、神奈川県大磯町の漁港で79歳の妻を海に突き落として殺害したとして81歳の夫が逮捕されました。無職の藤原宏容疑者は、午後5時半ごろ、大磯町の漁港で妻の照子さんを海に突き落として殺害した疑いが持たれています。
警察によりますと、釣りをしていた人が人が浮いているのを見つけ、照子さんは病院で死亡が確認されました。照子さんの身元を確認していたところ、藤原容疑者の息子から「父が母を海に突き落としたと言っている」などと通報があり、夫である藤原容疑者が浮上しました。
取り調べに対し、藤原容疑者は容疑を認めていて「40年近く介護をしていて疲れた」「散歩に行こうと誘い、車いすごと突き落とした」などと話しているということです。照子さんは足が不自由で車いすを使っていました。
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制度の光が届かないところに影ができると言いますが、この事件の加害者と被害者となったご夫婦には、制度の光は届けられていたのではないでしょうか。
40年もの長期間に渡って介護を続けていた夫が、22年前から存在する介護保険制度を知らなわけがないし、何らかのサービスを利用しながら介護を続けてきたと思うのです。
しかし制度の光が届かない真っ暗な闇とは別の場所にも、影は生まれてくるのだということを、この事件によって気づかされました。
光を浴びた影に、ほんの少しだけ存在する闇が、ふとしたはずみで感情のある人間の心理にしのび込む瞬間があるのでしょう。
この事件の加害者は、被害者となった妻を散歩に連れ出した時に、まさか海に妻を車いすごと突き落そうと考えていたわけではなかったのではないでしょうか。たまたま海の近くを散歩させていた時に、40年間の介護に疲れた思いと、これからそのことが何年先まで続くのか考えたときの絶望に似た思いが、心の隙に闇となってしのび込んだのではないでしょうか。
私たちソーシャルワーカーは、この闇に手が届くのでしょうか・・・。少なくとも制度サービスだけで、この闇を払うことはできないことを自覚しておく必要があるでしょう。
例えばケアマネジャーが、利用者に対して上から目線で自分が立案したサービス計画書の通りサービス利用して暮らして居ればよいと考え、その計画内容にいちゃもんをつける利用者や家族を排除しようとすれば、それは自らが闇になっているという意味であって、自分と同化して見えなくなる利用者の心の闇を見つけることはできなくなります。
だからこそソーシャルワーカーは、利用者と目線を合わせて、「ともに生きる姿勢」が求められるのだと思います。
他者からは決して伺うことができない利用者の思いを、いつも素直に吐露できる相手が、担当ケアマネジャーであるという関係性を築く必要があるのだと思います。だからこそ、「立派なケアマネになる前に、どうぞ感じの良いケアマネでいてください。」と思うのです。
そういうケアマネであれば、利用者の心にしのび込んだ闇を、利用者自身が素直に聞かせてくれるのではないでしょうか。
そのことによって、少しだけでも手が届く部分が増えていくのではないでしょうか。
私たちの仕事は、そういう小さな努力の積み重ねによって成り立つ仕事なのだと思います。
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