介護関係者に最も欠けているスキルとして、「発信力」を挙げる人が多い。
それは単なる印象で事実とは異なるかもしれない。発信力のある介護関係者も決して少なくはないと思う。しかしその発信力も介護関係者間にとどまり、社会全体に発信する力にはなっていないと言われると、なるほどと思うこともある。
介護関係の職能団体の公式サイトを、会員専用としクローズしているのも、介護業界全体の発信力を低下させる要因になっている。
会費を納めている人に対して報いるために、そのような閉ざされた情報発信をしているんだろうが、だからと言ってそこに会員だけが手に入れることができる貴重な情報が存在するかと言えば怪しい。
そもそも会員パスワードなど、手に入れようと思えば誰しも手に入れることができる。仲の良い会員に頼んでそっと教えてもらえばよいだけの話だ。しかしパスワードを手に入れてアクセスしても大した情報が載せられているわけではなく、がっかりして終わりということが多い。
どちらにしてもクローズしている意味はほとんどなく、単にアクセスする手間を増やしているに過ぎない。結果的にそれは情報発信力を自ら下げるというデメリットにしかならない。だから会員さえもそこにつなぐ機会を減らし、ほとんど誰にも見られないサイトと化す。存在しないのと同じである。
もっと情報をオープンにし、貴重な情報をすすんで発信するようにしないと、介護業界全体が閉ざされた業界と思われてしまう。それは国民全体に向けた福祉の向上に尽力していない業界というレッテルにもつながりかねない。
パスワード設定をしているクローズサイトの管理人は、もっとグルーバルな視点をもってサイト管理に当たるべきだ。
さてそのような発信力に欠く介護業界が、後手後手に回るような動きに見えたのが、先週の制度改正を巡る動きである。
9/29に書いた、「実態と先人たちの努力を無視した総合事業化論はどうなる?」で論評したように、僕は次期改正で要介護1と2の対象者の訪問・通所介護等の総合事業化は見送られるのではないかと予測している。それは介護保険部会等で、厚労省が積極的にその方向性を示しているわけではなく、財務省の主張の紹介などとして総合事業化案を説明しているにとどまっているからだ。
しかし9/28の「全世代型社会保障構築会議」では、厚労省に対して要介護1、2の訪問介護(生活援助)・通所介護を総合事業へ移管することも審議会などで具体的な検討を進めるよう要請を行う考えを示している。
このように政府による軽介護者の訪問・通所介護の総合事業化圧力を、厚労省がはねつけられるのかが今後の焦点になるが、この問題に関連して10/1の午後、Twitterでは一時、「#要介護1と2の保険外し」がトレンド入りした。
介護保険制度に関連したキーワードがトレンド入りした記憶はほとんどないので、これには少し驚かされた・・・。
この現象は、「認知症の人と家族の会」による、要介護1と2の保険外し反対のオンライン署名運動に支持が集まったことに起因している。
9/26の社保審・介護保険部会でも、認知症の人と家族の会代表委員は、「要介護1と2の保険外し」に反対意見を述べているが、同会はオンライン署名サイトChange.orgで、「制度はあってもサービスが使えないものになってしまう」と問題を提起し、「到底容認できない」と訴えたのである。
すると1日16時の時点で2万9065人が賛同するなど、大きな反響を呼んだ。お見事と拍手を送るしかない快挙だ。
認知症の人と家族の会が今回行った社会的アピールは、本来ならば介護職能団体がすべきではないのか。
特に通所介護事業者を数多く会員として抱える全国老施協は、軽介護者の介護給付外しを問題視して社会へアピールし、反対の国民世論を高める活動をすべきではないのだろうか。なぜなら、「もし軽介護者の通所介護が総合事業化されたとしたら・・・。」で指摘したように、軽介護者の訪問・通所介護の総合事業化が実現した場合は、どんなに経営努力を行っても、廃業せざるを得ない通所介護事業所は相当数に上るからだ。
それは介護保険サービスという社会資源の一部を失うことにほかならず、国民の福祉の低下を意味する問題であると、介護事業者団体が強く国民に向けて訴えるべきだ。
勿論、先日の介護保険部会でも、全国老施協の代表委員が軽介護者の保険はずし反対の意見を堂々と述べていることは知っている。そのことは十分評価できるだろう。しかしその声に国が耳を傾けるようにするためには、国民の支持がバックにあるということが重要になるはずだ。
特に全国老施協は先の参議院議員選挙で、老施協は組織内候補であった国会議員を失い、政治的な力が大きく削がれているのだから、それに代わる大きなパワーとして、国民の声を背負う必要があると思う。
そうであるにもかかわらず、支持を得るための情報発信に腰が重たいのが現状である。専門家集団であるはずの介護事業者団体が、「認知症の人と家族の会」の後塵を拝す動きしかできないようであっては、あまりにも情けない。
正論は国民の支持を得ることによって、大きな力になることをもっと意識しなければならないと思う。
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