(昨日の記事:実態と先人たちの努力を無視した総合事業化論はどうなる?から続く)
もし軽介護者(要介護1と2の対象者)の訪問介護と通所介護が、市町村の総合事業化された場合、通所介護事業所はどう生き残っていけばよいのだろう。
僕はそのことを考えると背筋が寒くなる。妙案がないからだ。
関係者の中には、「介護保険外サービスの確立による新たな収入源の確保や、要介護3以上の中重度者への対応強化など、通所介護事業のビジネスモデルの見直しを検討していかなければならない」と言っている人がいる。
それは至極当たり前のことに聞こえるが、「なるほど妙案だ」なんて全く思えない。
むしろ建前経営論でしかないように聞こえる。このような考え方を介護関係者に向かって披露する人は、本当にそんなことで通所介護事業が続けられると思っているのだろうか。だとしたら相当能天気である。
介護保険外サービスの確立による新たな収入源の確保というが、具体的にそれは何だろう。例えば通所介護サービス提供時間中に、同時進行して認められている保険外サービスとは以下の通りだ。(※下記画像は僕の講演スライドの1枚。)

こうした保険外事業を通常サービスとして行うことは大事だ。だがそれはあくまで顧客の利便性を図って、選択される事業所になる目的が主であって、この収益によって事業経営が安定化するなんてことは期待薄だ。
保険外サービスは利用者の全額負担であり、保険給付サービスのような値段設定はできない。そんな高額なサービスは誰も使えないからだ。そのため価格を安く設定する必要がありが、そうであっても利用者の大部分が利用するサービスではないために、そこにかかる人件費を考えると収益はほとんど期待できない。収益が挙がるとしても経営安定化の財源になるような金額ではない。
それとも通所介護とは全く別の保険外のサービスを実施して利益をあげるように体質改善せよという意味なのか?例えばフィットネスクラブを併経営するなど・・・。しかし保険外サービスは競争も厳しく、必ず収益が挙がるとは限らない。リスクも保険サービスより大きい。大きな損失を出す恐れが常にある分野だ。
そもそも保険で護られている温い事業経営で、十分収益が確保できない事業者が、経営手腕が必要になる保険外事業でどうやって収益をあげることができるのだ。
そういう意味で、「介護保険外サービスの確立による新たな収入源の確保」なんていうのは、言うは易し行うは難しと言ったところで、僕に言わせれば、「荒唐無稽」な意見でしかない。
「要介護3以上の中重度者への対応強化」はさらにひどい。笑止千万な指摘だ。要介護3以上の利用者が少ないのは、通所介護事業者に受け入れ態勢が整っていないからではなく、そもそも要介護3以上の人で、通所介護利用ニーズがある人が少ないからだ。
多くの地域で通所介護利用者の8割以上が要介護2以下の対象者である。通所介護事業者が重度化対応にシフトしたとして、この割合が急に変わって、中重度者の通所介護利用が増えるとでもいうのか?それはあり得ない・・・。
要介護4以上の人は、施設・居住系サービスへの入所ニーズが高いのが現状だ。そういう人たちの家族がレスパイトケアとして使いたいサービスは通所介護ではなく、数日滞在できるショートステイである。
また要介護3の在宅者は、通所サービスに加えて訪問サービスを必要とすることが多い。しかしヘルパーの不足から地方へ行けば行くほど訪問介護事業所の数は減っている。そのため訪問サービスと通所サービスをセット利用する、「小規模多機能型居宅介護」の利用ニーズが高まり、要介護2以下の人は通所介護、要介護3以上の人は小規模多機能型利用と、サービス間の住み分けが進んでいる地域もある。
この状況に劇的な変化がない限り通所介護事業者が重度対応にシフトを置いたとして、要介護3以上の通所介護利用者がそのことで今以上に増えるなんてことはないのだ。むしろ重度化にシフトするための、人件費や設備投資の資金回収の目途も経たない地域が多いのが現状で、荒唐無稽の経営論に踊らされては、大事を誤ることになりかねない。
そういう意味では、本当に軽介護者の通所介護が総合事業化されたとしたら、現在経営している通所介護事業所の半数近くが廃業する可能性があるのではないかと思う。その中にはポジティブな戦略的事業撤退とか、小規模多機能型居宅介護への事業転換とかも含まれてくるとは思うが・・・。
また総合事業化しても、実際のサービスは現行通りサービス事業所に委託して、同じサービスを単価を下げて実施するだけになる可能性は高い。通所介護事業所はそのため、何とか要介護2以下の利用者を今からたくさん囲い込んで、単価が下がる総合事業サービス受託で生き残っていくという戦略も考えられるが、そこでは今と同じ人件費をかけても収益は下がるのだ。
それは働き手のコスパの低い労働に委ねられるという意味で、せっかく改善傾向にある介護職の待遇悪化を助長するのではないだろうか。
このように考えると、軽介護者の通所介護の総合事業化は、通所介護事業者にとって厳しいものとしか言えない。それに対する有効な処方箋は、今のところ見つからないというのが本当のところだろう。
だからこそなんとしてでも、そのような暴挙は阻止せねばならないと思うのである。
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