秋分の日を前にした昨日、特養の職員が利用者を殺害し、逃走している容疑で指名手配されたという驚くべきニュースが飛び込んできた。
非常に残念で情けないことではあるが、介護施設を舞台にした殺人事件はこれが初めてではない。Sアミーユ川崎幸町事件を筆頭に、恥ずべき犯罪が過去にも起こっているが、仕事中に職場で入所者を殺害した犯人が事件後逃走し、全国に指名手配されたという点では前代未聞の犯行と言える。
介護事業者を舞台にした死亡・傷害事件は、虐待がエスカレートした結果の致死・致傷であることが多かったが、本件はそうした事件とは明らかに性格が異なり、特養という介護施設を舞台にした残虐な殺人事件であるといえる点でも特異性が伺われる。
どちらにしてもこの事件によって、介護業界全体が社会からの信用を失い、すべての介護施設が事件につながる何らかの病根を持っているように疑われ、事件が氷山の一角でしかないというような批判にさらされることは容易に想像がつく。まじめにかつ地道に高品質な介護サービスを提供している事業者や職員からすれば迷惑至極の犯罪でしかなく、怒りしかない感じない事件であるといえよう。
殺人容疑で指名手配されたのは、菊池隆容疑者(50歳)。事件の舞台となったのは、東京都北区浮間の特別養護老人ホーム「浮間こひつじ園」。こひつじに、とんだオオカミが潜んでいたものである・・・。
犯行が起きたのは9/15。菊池容疑者は15日午後10時に出勤し、同時刻〜16日午前1時ごろの間に、施設内で入所者の山野辺陽子さん(92歳)に暴行を加え、殺害した疑いが持たれている。
山野辺さんは16日午前7時25分ごろ、1人部屋のベッドの上で頭から血を流しているのを発見され、病院に運ばれたが死亡した。顔に複数の打撲の痕があったほか腕も脱臼しており、胸などに熱湯を掛けられたとみられる火傷も負っていた。隠しようもなく、隠す気振りもないような残虐な行為である。
菊池容疑者は事件後、宿直の勤務中だった施設を抜け出し、コンビニのATMで現金を引き出した後、都内や千葉県我孫子市・茨木県つくば市などを転々と移動していることがわかっているが、都内に戻った後の足取りはつかめていないとのことだ。現金を引き出した後、上野で悠々と入浴施設を利用しているなど、犯人のふてぶてしさも感じられる・・・。
同容疑者について、「気の短い人だと聞いています」と同僚が証言している報道も見られるが、職場のどういう場面で「短気」と感じたのかが気になるところだ・・・利用者に相対する場面で、そのように感じたのなら大きな問題である。
ところで同容疑者は、1週間に5回の夜勤専任者として勤務していたそうである。つまり日中の勤務はなかったということで、業務の多くは特定フロアのワンオペという形だったのだろう。
そこではすべての決定権を一人で握る独裁者になれるかもしれない。しかも日中の勤務がないのだから、他の職員とチームで協力し合ってサービスを提供するという意識に欠ける懸念も生ずる勤務形態である。・・・こうした夜勤専任者を採用する際に、適切な選考と教育訓練はされていたのだろうか?
夜勤専任者を雇用している施設の多くが、人員不足に悩んでいる施設である。人数が足りないから、日中行わねばならない業務のためのシフトを組んだ時に、夜勤者が足りなくなるので、日中必要な業務を行うことができるスキルがない人でも、夜勤時間帯にそこに配置できて、必要最低限の業務をこなしてくれれば良いという形で、安易に採用しているようなことはなかったのか・・・。
そこで事件のあった施設のネット口コミ情報を検索してみた。
事件が起こる前からの評判も随分悪いと言える。
こうした状態は、職員教育もまともに行われていないことを示しているように思う。サービスマナー教育なんて行われていなかったんだろうなと容易に想像がつく。前代未聞の事件の根は、案外そんなところにあるのではないのか?
どちらにしても本件に触れたすべての介護事業経営者や管理者が肝に銘じてほしいことがある。こうした職員が一人でも混じって事件を起こせば、それは職員個人の問題ではなく、介護事業者全体の社会的責任・道義的責任が問われる問題に発展して、事業経営危機に陥りかねないということだ。
だからこそ職員採用は慎重に、職員教育は十分に行わねばならないし、数合わせの夜勤専任者の雇用は危険いっぱいだということを理解すべきだ。
さらに画像を貼り付けたように、「介護施設や介護サービス事業所の口コミ情報」が簡単にネット検索できるようになっているということを十分自覚すべきだ。
ここに口コミ情報を書き込んでいるのは、施設や事業所を訪れる、他事業所の職員であったり、家族であったり、業者であったり様々だ。来訪者すべての人が、スマホを持ち、動画を撮影でき、映像や意見をネット配信できるのである。
タメ口対応を直すことができない職員を放置しておく事業者は、人生の先輩であり、お客様でもある介護サービス利用者に対して、「なんという無礼な言葉かけをしているんだ」と動画を撮影され、SNSにアップされて批判され、それが口コミ情報として永遠にネット上に残ってしまうのである。
そうならないように介護サービス利用者に対するサービスマナー意識を向上させ、ワンオペ勤務であっても常に適切対応ができる組織風土と職場環境を創っていかねばならない。
それが職場を護り、従業員と利用者を護り、すべての関係者に最良の結果をもたらす唯一の方法であることを改めて認識しなおさねばならないと思う。
事件を対岸の火事として眺めて終わりでは、いつその火の粉が自分の身に降りかかるかしれないと考えてほしい。
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