厚労省は2016年から10か年計画で自立支援・重度化防止の推進策の一つとして、「適切なケアマネジメント手法」の確立と推進に取り組んでいる。
なぜそれが必要とされているかと言えば、ケアマネジャーという資格を持っている人たちのケアマネジメント力の個人差が大きいことが問題となっているからだ。
もっと具体的にいえば国は、「基礎資格によってケアマネジメントのばらつきが大きい」・「支援内容を導き出した明確な根拠を示し説明できないケアマネが存在している」という問題が背景にあると指摘している。
以前からケアマネジャーに対しては、「メディカル、コメディカルと対等に渡り合える知識と実践力 があるのか?」という指摘もあったことから、「基礎資格によって〜」の意味は、メディカル(医師)やコメディカル(医師以外の医療関係者)と対等に意見交換ができない福祉系ケアマネジャーという意味ではないかと想像される。
そのため「適切なケアマネジメント手法の確立」の中には、福祉系のケアマネジャーにも最低限の医療知識を身に着けて、医療関係者と対等の議論ができるようになってほしいという意味が込められているのだろう。
それは高齢者には持病がつきものであり、持病管理が即ち自立支援につながる事例が多いからである。
よく言われるのが、持病として糖尿病を持つ高齢者のケアプランに血糖値管理の方策が書かれていない計画書があるということだ。血糖値を正しく管理しないことによって合併症が発症し、身体機能の低下が早まり、それがADLの低下につながる事例は少なくなく、その多くが福祉系ケアマネジャーが作成した計画書であると指摘されるているのである。
そのような無知による自立支援の失敗をなくしたいというのが国の意向でもある。
そのため今後は、基本ケアと疾患別ケアで構成するケアマネジメントの実現を図るために、ケアマネジャー養成カリキュラム等を更新していくことになっている。
基本ケアとは、すべての利用者に共通する、「支援する際に重視すべき事項」を整理して示すことを指している。そのために、ADLや栄養・認知症等の状態像から導き出すエビデンスの確立を目指して、LIFE(科学的介護情報システム )が活用されることになる。
疾患別ケアは、利用者が抱える疾患の特徴を踏まえ、回復期〜安定期の期別に応じた想定すべき支援を整理することが求められている。
例えば「心不全」をモデルにした疾患別ケアを考えてみよう。
循環器病は心臓にダメージを与え続けた結果、ある時点で心不全を発症させる。これを「急性心不全」というが、心不全をいったん発症すると基本的に根治しないため、弱った心臓をいかにサポートし、できるだけ症状の悪化のスローダウンを図るケアが必要になる。
つまり心疾患は一旦病状安定後、「慢性心不全」として繰り返し発症するという予後をたどり(ステージC)、やがて心不全が重症化し治療効果が出にくい状態に陥る(ステージD)。介護支援専門員は、心不全がこうした段階を経ることを知っておく必要がある。
心不全を発症しても、発作が収まれば身体機能はほぼ正常に保たれているように見え、ADLの低下もほとんど見られない人は多い。目に見えていることだけのアセスメントで終われば、以前と同じことができて問題ないと思われてしまう。しかし心機能自体は低下し続けることを忘れてはならないのだ。慢性心不全の増悪の度に心機能低下は進行するのだ。
よって一旦心不全発作を起こした人は、元の健康状態には戻らないことを前提にケアプランを立てる必要がある。これが疾患別ケアの基本だ。
心不全発作が収まり症状が回復してADLに変化がなくても、元の暮らしを送ること自体が心臓に負担をかける要因となりかねず、自立支援が大事だと言っても、そのために無理をさせることが急性増悪の原因になるのである。場合によってその無理は、死期を早めるということにもなりかねない。
だからこそ元と同じ家事をこなすことを強いてはならないケースも多くなるという理解が必要だ。その場合は心臓に負荷をかけないように、適切に生活支援(家事援助)をプランに組み込む必要が当然生じてくるのである。
そのためには心不全の発作が収まり退院が決まった時点で、主治医師から適切に情報を受けとり、禁忌事項などを確認しておく必要がある。それらの注意事項や禁忌事項を日常生活の中にどうつなげていくかという視点で計画を立案しなければならない。
このような疾患別ケアの視点を正しくもって、幅広い視点で生活全体を捉え、生活の将来予測や各職種の視点・知見に基づいた根拠のある支援の組み立てを行うことができる知識や技術を修得させることを目的にしているのが、現在行われている「適切なケアマネジメント手法」の確立と推進事業である。
そこでの最大の課題は、「経験値の共有化」である。
福祉系ケアマネジャーであっても既に、基本ケアと疾患別ケアで構成するケアマネジメントがしっかりできている人も居る。そうした介護支援専門員が努力して蓄積してきた知識や思考の方法は、介護支援専門員全体の大切な財産である。
それらの人の経験と知識を、いかに伝えていくのかが課題なのだ。
蓄積された知識を共有化するために、それらを言語化・体系化する必要があるが、僕個人としてはそのためにはアセスメントの結果を言語化することが必要不可欠ではないかと思っている。
自分が立案した計画書の内容を、アセスメントの結果に基づいて、根拠を正しく伝えることにより、「経験値の共有化」は実現するのではないかと考えている。
僕の介護支援専門員に向けた講演では、こうした視点もしっかり伝えているので、居宅ケアマネ・施設ケアマネ双方の研修を希望される方は、是非講師依頼の打診メールを気軽に送っていただきたいと思う。よろしくお願いします。
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でも、年を重ねてさらに強く感じるのが、誰かの言葉よりも自分の強みだけで(事実を言えば知っている事だけで)考えてしまいます。試しにこれから1か月は少しでも分からない事は確認したり、調べたりしてみます。
とりあえず自分が分からない事、分かっていない事に気付くこと、認めることが課題です。これが難しい。
masa
がしました