人口減少社会の中で、出生数が6年連続で過去最低を更新し続ける我が国では、生産年齢人口と労働者人口の減少が続き、それがさらに深刻化して改善の見込みも立たない。
しかし後期高齢者と要介護者は、2042年頃までは確実に増え続ける。そのため人に替わって機械が担えない部分が多い介護の仕事は他産業よりはるかに深刻な労働力不足が予測される。
それを見越して、「介護労働の場の生産性の向上」が強く求められている。科学的介護もそのために求められるものだし、ICTや介護ロボットの活用も生産性を向上させるために必要とされているのである。
機械が人に替わることのできる部分(例えば見守り機器)は、それらを積極的に導入し活用すべきであるし、介護ロボットの技術水準を高めて、人の手をかけなくても良い部分を広げていくことは大いに賛成である。そのことに反対する人はいないだろう。
ただし現状のICTを含めた介護機器の技術水準では、機器導入して人の配置を削ることが難しいので、安易な人員配置基準の緩和は行うべきではないというのが、介護の場を知悉する常識人の考え方である。
機器の活用=人の削減ではなく、機器を活用することで、まずは業務の省力化を図り、働きやすい職場環境を創ることが最も必要なことなのである。そのことによって介護という職業に就きたいと思う人や、定着する人が増えることを期待したいということだろうと思う。
だがICTを活用することで早速緩和できる人員配置基準も存在する。その最たるものが、特養の宿直者配置である。
特養の夜間宿直者の配置については、介護保険関連法令とは別に、「社会福祉施設における防火安全対策の強化について」という通知において、「特別養護老人ホーム、身体障害者療護施設については、夜勤者(直接処遇職員)とは別に、宿直者を必ず配置すること。」規定されている。
その規定を受けて、「特別養護老人ホームの設備及び運営に関する基準について」の11勤務体制の確保等(2)は、『職員の勤務体制を定めるもののうち、介護職員の勤務体制については、「社会福祉施設における防火安全対策の強化について」により、三交代制を基本とするが、入所者の処遇が確保される場合は、二交代制勤務もやむを得ないものとすること。併せて、同通知に定める宿直員を配置すること(介護保険法(平成九年法律第百二十三号)に定める介護老人福祉施設又は地域密着型介護老人福祉施設である特別養護老人ホームであって、厚生労働大臣が定める夜勤を行う職員の勤務条件に関する基準(平成十二年厚生省告示第二十九号)第四号ニ又は第五号ハを満たす夜勤職員を配置し、かつ当該夜勤職員のうち一以上の者を夜間における防火管理の担当者として指名している時間帯を除く。)。』と規定されている。
宿直者の配置については2015年に見直しが行われたかが、「特養の夜間宿直配置基準の変更は意味のない変更だった」でその顛末を書いた通り、夜勤者が配置基準以上に加配されている時間帯のみ置かなくてよいという変更でしかなく、1時間でも加配されていない時間があれば、その時間は宿直者が必要となるために、多くの特養ではいまだに夜勤者+宿直者という体制を取り続けている。
この規定は、東京都東村山市の特養における火災死亡事故を受けて対策されたものであり、老健や介護医療院は対象となっていない。
つまり夜勤時間帯に夜勤者とは別に宿直者(事務当直等)を配置しなければならないのは介護保険施設の中で特養だけなのである。これは不公平と言ってよいと思う。
同時に老健や介護医療院で、夜勤者とは別に宿直者を配置していなくとも特段問題となっていないという事実がそこに存在することも理解してほしい。
さてそこで現行の特養の宿直者の実務が怒鳴っているかを考えてみたい。宿直業務といっても行っていることと言えば、事務当直として夜間の(ほとんどかかってこない)電話番であり、定時の施設内巡回だけである。しかも巡回と言っても、直接利用者対応できるスキルの当直者はほとんどいないため、防犯上の設備巡回にとどまっている。
こんな業務のために宿直者を配置しているのは意味がないけれど、火災などの事故があった場合に、宿直者が居なくてよいのかという議論はナンセンスだ。前述したように特養以外の介護施設は、その配置がないのだからそれと比較して特養だけが災害に備えて宿直者を配置しておく必要性はほとんどない。しかも介護ができない宿直者が、災害時の避難誘導にどれほど役に立つのかは大いに疑問だ。
通報や避難誘導に少しは役立つだろうということであれば、それこそICTがそれに替わることが可能となるだろう。
よってICTの導入・活用によって、特養の宿直者の配置はしなくて良いという規定に関連通知基準を変更すべきであり、そのことを強く訴えたい。
全国老施協が率先してこの提言をすべきだと思うが、なぜそれをしないのだろうか。介護事業の生産性向上と配置基準緩和がセットで議論されている今日だからこそ、そうした提案をすべきだと思うのだが、誰かそこに気が付く人間は全国老施協執行部の中にいないのだろうか・・・。
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