社保審・介護保険部会(8月25日)で厚労省は、今後の介護保険制度改正論議において特養の入所基準変更を議論の俎上に乗せる旨を明らかにした。(参考資料)
資料の当該部分を要約すると、「既に高齢化のピークを迎えた地方を中心に、高齢者人口の減少により待機者が減少して、定員が埋まらずに空床が生じているという声がある。」などとしている。
他の介護保険施設と同じように、要介護者が入所対象となっていた特養であったが、平成27年度(2015年度)から要介護3以上の要介護者に限定して入所が認められるように法令が改正された。
これがいわゆる特養の入所要件の厳格化と呼ばれる法改正である。
その基準を再度見直そうという提案が介護保険部会で行われたのである。
2015年当時、僕は社福の総合施設長として特養も管理していたが、入所要件の厳格化で混乱した覚えはない。僕の管理する特養は入所者の平均要介護度も高かったし、要介護1と2の対象者も在籍していたものの、それらの方々も全て経過措置で救済された。さらに経過措置期間を過ぎたとしても特例入所の対象となる認知症の方などであったため影響はなかった。
しかし全国的にみると、その影響はどんどん広がっていたようで、2017年ごろから特養の待機者の減少と空床増加が報告されるようになった。
北海道でも人口の少ない郡部に新設された特養のベッドが埋まらないという話も聞こえるようになった。
それは特養の入所要件が要介護3以上となったことに加えて、有料老人ホームやサービス付き高齢者向け住宅などの「高齢者向け住まい」の数が増えた影響もあると思える。

現に、「高齢者向け住まい」が増加し続けており、その定員数は約 88.3 万人と介護保険施設の利用者数(受給者数)の約 104 万人に近づいている。さらに事業所数でみると、高齢者向け住まいは約2万4千件 と、介護保険施設の約1万6千件を上回っているのである。
この影響を受けて全国の5割以上の特養に空きベッドが生じていると言われ、全国の平均空床率は25%前後であると推測されている。実に特養の指定ベットの1/4が使われていない。
勿論、ベッドが稼働しない理由は、入所利用者が見つからないということだけではなく、介護職員が配置できずに一部のフロアを休止せざるを得ないという施設も少なくない。しかし入所待機者が減っているのも事実であり、特養への入所希望者を見つけることができずに、相談員が顧客探しの営業のために地域を回るというケースも増えている。
そのような背景が今回の厚労省の提案に結びついたのではないかと思われるが、さすがに2015年度に法改正したばかりの規定を元に戻すことはないだろう。そんなことをすれば特養の入所要件の厳格化を推奨してきた厚労省の面子が丸つぶれになる。
よって、「特養の入所基準変更」とは、入所要件を要介護1以上に戻すのではなく、特例入所を使いやすくするなど、例外規定の拡大を図るという意味ではないのだろうか・・・。今後の介護保険部会での議論の進展が待たれるところだ。
どちらにしても特養の入所基準変更の必要性は、厚労省が言い出しっぺであるのだから、実現可能性が高いと言ってよいだろう。
すると2024年度以降、要介護1と2の方々の特養新規入所ケースが増えるようになると思われる。特養は補足給付対象施設なのだから、年金受給額が低い高齢者にとっては利用しやすい施設であり、今現在サ高住等の「高齢者向け住まい」に入居している人の住み替えも進むだろう。
すると特定施設・GH・サ高住が影響を受けるだけではなく、行き場がなく「基本型老健」や「その他」の老健に入所している軽介護者も特養に流れ、老健施設の顧客確保が現状より難しくなるだろう。在宅復帰を希望していない軽介護者にとって、3月ごとの在宅復帰検討で自宅に帰ることを促される不安は、特養に入所することで解消できるからだ。
サ高住等に暮らしながら通所サービスを利用していた人も特養入所で、通所利用をやめるケースが出てくる。
自宅で頑張って暮らし続けた人が、利用料金の安い特養に早めに住み替えて、訪問介護や訪問看護・通所介護や通所リハの利用をやめるケースも出てくるかもしれない。福祉用具貸与にも当然影響が出てくるだろう。
よってこの問題は、特養関係者のみならず、他の介護保険施設・高齢者向け住まい(居住系施設)の関係者や居宅サービス関係者も注目すべき問題であろうと思う。
この問題について今後の検討・議論の動きに注目しなければならない。
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