社会福祉法人は措置費時代、国家公務員準拠の給料表と給与規定で運営されていた。準拠とは、同じという意味である。だから僕が就職した際は、国家公務員の大卒一般職と同じ給与をもらえたわけである。
これは全国の社会福祉法人が、そうするよう国から指導されていたものだ。
介護保険制度施行時に、基本サービス費設定の参考資料として、全国の介護事業別平均職員給与を調査した際に、老健施設の給与平均より、特養の給与平均額が高かったのはこの事情によるものだ。
僕が所属していた社福は、介護保険制度以後もその規定を引き継いで、実質国家公務員と同じ待遇が維持されていた。そのため給与等の待遇は市内の介護事業者の中ではトップクラスであった。
僕は、そのような社会福祉法人の総合施設長を務めていたが、その際は当然のことながら、雇用など人事に関する決定権を持っていた。
前述したように、待遇面では恵まれていた僕の所属法人には、他の介護事業者に勤めている人で転職を希望して、職員募集に応募してくる人も少なくなかった。
僕自身はそのことに抵抗感はなかった。別に生え抜きの人材が貴重だという価値観を持っていたわけではないので、良い人材ならば喜んで他事業所からの転職希望者であっても採用することはあった。
特に僕が総合施設長を務めていた当時、僕の施設には介護福祉士養成校の新卒者が就職を希望することも多く、しかし退職者がいないために職員募集をしない年も多かった。
そのため介護福祉士養成校の教え子などで(※社福に務めている間も、介護福祉士養成校の臨時教員を務めていた)、僕の法人に就職希望がある生徒も採用することができずに、他事業所に就職していた。そういう子は募集枠ができた際に、転職者雇用として採用していた。
だが転職希望者については、特定の職場から複数人数の募集応募者があった場合、いくらスキルが高いと思う人が同時に応募してきたとしても、一人しか採用しないと決めていた。
それには二つの理由がある。
一つには地域福祉を担う介護事業者は、別の事業者であっても敵ではないということ。同じ地域の福祉の向上を目指す仲間であるという面もあるので、複数人数を一度に転職採用することは、引き抜きとみられて、関係性も悪くなるだろうし、そのことは殺伐とした地域の福祉事情につながるかもしれない。一応の仁義を通す意味で、他事業所から同時に複数の応募者の採用は控えていた。
サービス競争はあってよいが、それが人材引き抜きを根に持った、「戦争」に発展してはかなわない。戦争は不幸しか生み出さないのである。
それともう一つの理由は、同事業所を同時退職して、他の事業所に同時に採用された人同志は、知らず知らずの間に派閥的な関係を形成しやすいということもある。元の職場のルールや考え方を絶対的なものとして、僕の職場のルールや考え・方法論を素直に受け入れがたい状況をタッグを組んで作り出すことを懸念した。
例えば3年ほど前、熊本県のある有料老人ホームで、他の有料老人ホームを揃って退職した経験者3人を同時採用したところ、この3人がグループを作って利用者虐待を行っていたことが発覚してニュースになったことがある。
このホームは、それまで地域から信頼される運営をコツコツと行っていたにもかかわらず、サービスの質向上と、従業員の負担減のために人を増やしたことが、虐待事件につながり、報道機関から批判を受け、地域の信頼を失い、経営危機に陥ったケースがある。
そうしたリスクを考えた際に、同時退職者の採用は考えものであると言える。
また同事業所を同時に退職した人同志は、新しい職場に揃って入職した場合、どちらかに退職動機が生じた場合、揃って退職する傾向も強いように思えた。
それもあって転職採用は一事業所から一名のみのルールを課していた。
そもそも僕がその法人に居た当時は、職員の定着率が高かったので、複数の職員を募集することは、4月の新卒採用時期以外ほとんどなかったという事情もそこにはあったといる。
ところで、経験のある転職者に対しては、現在持っている価値観はともかくとして、新しい職場で何を目指すべきかを示して、新たにどのようなルールのもと、どのような価値観を見出し、それに向けて自分をどう成長させていくべきかを、しっかり説明しておくことが大事である。
できればそのことはトップが直接行う方が説得力があると思い、僕自身が説明していた。
当然のことながらその際には、職場の理念とルールを明確に伝え、それを護ることを仕事を続ける条件とすることを強調した。
そのため試用期間中に、僕の法人の理念とルールを遵守する姿勢が見えない人は、試用期間終了時点で辞めてもらっていた。
こうした厳格でぶれない方針と実行によって、定着率が高い職場環境が創られ、維持されていたのが当時の僕の社福であった。今はどうだろうか・・・。
昨今の介護事業者の中には、それと真逆で、職員募集に応募したものを闇雲に採用し、試用期間の適性判断も行わずに、叱れば辞めることを恐れて満足に教育指導もできないというところが増えている。
そんな数合わせの職員採用に終始しているところは、荒れた職場環境しか生み出さず、いつまでたっても人材は集まることも育つこともなく、人員不足は永遠解消されない事業者となるであろう。
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