介護保険制度改正は、制度の持続性を担保することを最大の目的として行われているので、財源に限りがあることを理由として、青天井の給付を防ぐために様々な給付抑制策が取られていくことになる。
利用者負担増も、財源確保の方策として実施されていることは間違いないが、それに加えてサービスの抑制効果を見込んで実施されていく意味合いも含まれている。
昨今の介護保険制度改正状況を見ると、こうした給付抑制策と利用者負担増を含む国民負担の増加策が次々と実現されているが、一度実現が見送られた給付抑制策や国民負担増についても、決して廃案になって終わりではなく、繰り返し議論され、タイミングを選んで実現の運びとなっている。
そのことを考えると、次期(2024年度)制度改正・報酬改定では、居宅介護支援費の自己負担導入がきわめて現実味を帯びてくる。
なぜなら過去に議論があり、その議論が続いている積み残された課題とされるものの中で、一番古くから議論されているのがこの問題だからである。自己負担導入論が議論の俎上に上ったのは2008年であり、そこから検討され始め今年で足掛け15年目の議論なのである。
そのため財務省は、「他のサービスでは利用者負担があることも踏まえれば、利用者負担を導入することは当然である」(財政制度等審議会資料より)とより強い言葉で、自己負担導入を求めている。
しかし他のサービスと居宅介護支援を同列視することは、介護保険制度施行時に否定されており、「居宅介護支援は、実際のサービスを提供するものではなく、相談支援や手続き支援であり、利用者に自己負担を求めることは馴染まない。」とされていたことを、私たちはしっかりと記憶している。
そうした考え方がなかったかのように、財務省官僚は記憶障害を装って居宅介護支援を他のサービスと同列と決めつけて利用者自己負担導入を求めているが、それは極めて乱暴な意見でしかないと言える。
しかしそうした意見を支持する声も出てくる背景には、居宅介護支援費の介護給付の費用額に占める割合が、制度開始当初の3%台前半だったものが5%をうかがう水準に伸びているという理由がある。
これは短期入所生活介護や通所リハビリの給付費用を超えているという意味であり、仮に居宅介護支援費に他のサービスと同様の1割〜3割自己負担が導入されると、年間約590億円の財政効果が見込まれることになる。この数字は2021年度の介護報酬改定でプラスとなったことによって、年間650億円の給付費が増えている分の9割以上の金額を賄う数字に該当することになる。
このことが利用者負担導入議論のお尻を押す形になっているのである。

ところでこの問題に関して、全国老施協が5日に厚労省に提出した要望書の中で、「例えば、仮に自己負担を導入する場合は、加算の有無で費用に差が出ることがないよう1割負担ではなく定額制とすることも考えられる」(18頁)と自己負担導入を受け入れるような意見を書いている。
老施協は組織内候補であった国会議員を失い、政治的な力が大きく削がれてるために、要望書自体も国から軽視される可能性が高いが、この部分だけは介護業界組織も自己負担導入を受けて入れいることの証拠とされる可能性が高い。
要望書18頁の「ケアマネジメントに関する給付の在り方」の冒頭には、「全額公費が望ましい」という意見も付されているものの、その部分は無視され、「定額制の自己負担導入の提案を行った」ということが大きく取り上げられ、結果的に自己負担導入の後押しに利用されることになるだろう。
つまり国側にいいように利用されるだけの結果にしかならないのである。
居宅介護支援費の利用者負担は、定率負担ではなく定額負担も考えられるという議論は2008年当時から存在する議論で、今更全国老施協が念押しするまでもない議論なのに、要望書にそれを書くことによって、全国老施協という組織が居宅介護支援費の自己負担導入を容認したという印象を強く業界に与えるだけの結果になっている。
しかし一旦自己負担が導入されれば、それが定額制であろうと数年後には、「居宅介護支援費だけ定額制なのはおかしい。他のサービスが定率負担なのを踏まえれば、居宅介護支援費も定率負担にするのは当然だ」という理屈がまかり通って修正されるのは必至で、ことさら定額制で利用者負担導入を認める意味はほとんどないといっても過言ではない。
そもそも利用者負担は1割〜3割までに分けられているにもかかわらず、国に挙げる要望書に、「1割負担ではなく」などと意味不明なことを書いているのが、この組織の頭脳が機能していない証拠でもある。
何度もこのブログで指摘しているが、ケアプランの有料化は、御用聞きケアマネや、囲い込み事業者を増やすだけで、自己負担化された費用より、過剰サービスの給付費が上回ることになる懸念もぬぐえない。自己負担金の徴収業務・会計処理などで介護支援専門員の業務負担も増大するだろう。(参照:ケアプラン有料化にメリットはゼロどころか・・・。)
こうしたデメリットが明らかなのに、次期介護報酬改定時には居宅介護支援費の自己負担導入可能性が高まっている。
全国老施協が図らずも、それに手を貸してしまっている結果になっていると言うことになるのだろう・・・。全く馬鹿げたことである。
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(1)訂正内容
18ページ「3(3)ケアマネジメントに関する給付の在り方」のうち、以下の文章を削除する。
「〇 しかしながら特別養護老人ホームでは介護支援専門員が人員配置基準に含まれていることから、入所後は実質負担していることになるため、公平性の面から議論は必要。
〇 例えば、仮に自己負担を導入する場合は、加算の有無で費用に差が出ることがないよう1割負担ではなく定額制とすることも考えられる。」
(2)訂正理由
当会は、ケアマネジメントの費用負担の在り方については、議論は必要であると考えているものの、全額公費が望ましいという立場であり、定額制で自己負担を導入すべきと提言しているかのように誤解されるおそれがあるため。
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