一定要件下において介護福祉士等の喀痰吸引と経管栄養が認められてから10年を経た今日、他の医療行為も行えるようにすべきだという声が挙がり始めている。

そのことを論評する前に、喀痰吸引等が介護福祉士等に認められている要件と経緯を確認してみよう。

2012年(平成24年)4月に「社会福祉士及び介護福祉士法」が一部改正され、2016年1月以降に合格した介護福祉士と、一定の研修を受け「認定特定行為業務従事者認定証」を与えられた介護職員については、下記の条件を満たすことで、喀痰吸引(定期的に痰を取り除く)と経管栄養(体外から管を通して栄養や水分を投与する)を行うことができることになった。

(要件)
・勤めている施設・事業所が、医療と介護の連携を整えて都道府県知事の登録を受けている
・医師から実施に関する指示や業務の流れを、手順書によって共有されている


この法改正によって、それまで当面やむを得ない措置として違法性阻却(形式的には法令に反し、違法を推定される行為であっても、特別な事由があるために違法ではないとすること)という形で認められていた痰の吸引と経管栄養が、時限措置なき違法性のない行為として晴れて認められるようになったわけである。

しかし、摘便褥瘡の処置インスリン注射血糖測定等については、介護福祉士等が行えない医療行為とされたままになっている。

介護職員は医療職ではないのだから、上記の行為ができなくて当然であり、なおかつ闇雲に医療行為を行う特例を拡大してはならないという考え方はあって当然だろう。

だが超高齢社会が進行し続ける中で、医療行為支援を必要とする人の数が増えているという現実があるにもかかわらず、その対応ができる医師や看護師の数が十分確保できない現状もある。その状態をいつまでも放置したままで、医療職以外ができる医療行為を拡大しないことによって、必要な支援が行えずに見捨て死させる人を増やす結果にもなりかねない。(※下記画像は、北海道上富良野の風景:イメージ画像
上富良野の風景
そのため次期介護保険制度改正議論に付随する問題として、介護福祉士等が実施できる特定行為業務を拡大しようという議論が進行している。

特にインスリンを自己注射できない高齢者は少なくなく、それらの人の日常は、家族がインスリン注射をすることによって支えられているという実情がある。

しかし家族と同じ行為(※インスリン注射)を介護職員ができないことによって、糖尿病で毎日インスリン注射が必要な人が特養入所や短期入所生活介護利用ができないケースが相次いでいるのである。そのためインスリン注射を介護福祉士等が実施できるようにすべきだという意見が出されている。

医学の発達は日進月歩と言われるなか、インスリンが発見されてから100年以上になるにもかかわらず、経口摂取できるインスリンはまだ開発されていない。そのためインスリンは注射するしかなく、それができないことで必要なサービス利用ができない人がいることを考えると、その対策は待ったなしである。

介護職ができる行為として、気管カニューレ内部の喀痰吸引という難しい行為まで認めているのだから、家族が注射して問題ないインスリンの注射は、介護職員が行うことができる行為としてよいと考える。

勿論そのような行為を介護業務として認めることは、介護職員の過重労働につながりかねないという懸念は承知の上である。

そうした様々な懸念があるとしても、医療器具や医療材料を日常的に使うことによって日常生活を送ることができる人が増えている今日、時代に合わせてサービスの供給量を、専門技術対応に追いつく方向に改革していく必要性がより認められるということではないのだろうか。看護師も医師しかできなかった行為の一部を行うようになっている改革もその一環だろう。

だからこそ介護機器などのテクノロジーは、介護業務の省力化の方向で開発を急いでほしいし、機器導入によって介護職員配置を削ることなどもってのほかと反対せねばならないわけである。

ということでインスリン注射は、是非とも介護福祉士等ができる行為に含めてほしいというのが、僕の考え方である。

なお、「医療行為には該当しない」として現在も介護職員に認められている行為には、以下のような行為がある。
■ 体温計を用いた体温測定
■ 自動血圧測定器を用いた血圧測定
■ 酸素濃度測定器の装着(新生児以外で入院治療が必要な患者さんに対する場合)
■ 軽微な切り傷や擦り傷、やけど等の処置(ガーゼ交換を含む)
■ 湿布の貼付
■ 軟膏塗布(床ずれの処置を除く)
■ 目薬をさす
■ 服薬介助(薬を飲ませる行為)
■ 坐薬の挿入
■ 鼻腔粘膜への薬剤噴霧の介助

また、医師法や歯科医師法、保健師助産師看護師法等の法律上において医療行為とされているものの、規制対象外となる行為は以下の通りである。
■ 耳垢の除去(耳垢塞栓の除去を除く)
■ 爪切り、爪やすり
■ 歯ブラシや綿棒による口腔のケア(歯、口腔粘膜、舌等)
■ ストーマのパウチにたまった排泄物の廃棄
■ 自己導尿補助におけるカテーテルの準備、体位保持
■ 市販の浣腸器を用いた浣腸
※これらの医療行為については、要介護者に異常が見られない場合であれば介護職員が行って問題なしとされている。

本日は、介護職ができる医療行為と、そうではない医療行為、医療行為とはされていない行為等を整理したうえで、特定行為業務の拡大を提案する意味で記事更新している。

皆さんの意見はいかがだろうか・・・。
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