科学的介護とは、「こうすればこうなる」というふうに、原因と結果に因果関係を求め、それに即した介護実践を行う方法論のことを指すものだ。

科学的介護を確立することで、全国のどこでも・誰が行っても、一定程度以上の介護の質が担保できるという意味でもある。

それとともに人手が益々少なくなる世の中だから、介護人材の確保もままならないので、その代わりに科学的介護実践によって介護業務の生産性を高めることも目的の一つとしている。現在より人手をかけずに介護サービスが完結できるようにすることを睨んでもいるというわけである・・・。

しかしそのような介護実践が本当に可能なのだろうか・・・。

そうした疑問が生じざるを得ない理由は、介護の場では理屈では説明できない難しい問題が多々生ずるからである。そしてその原因は、多様性がある人間の感情という最も個別性が高く、個性的な問題と向き合わねばならないことにある。

僕が経験したケースを例に挙げてみよう。

特養に入所している70代の女性Kさんは、四肢に障害があり要介護4の認定を受け、日常生活全般に援助を要する状態である。ただし認知機能には問題はなく、記憶もクリアで意思決定能力には何ら問題のない人だった。

当時その施設の総合施設長だった僕から見ると、Kさんはいつも笑顔を絶やさず、性格は穏やかな感じに見えた。

しかし実際に介護を行う職員の目線から見えるKさんは、少し違った印象を与える方だったようで、人の好き嫌いがはっきりしており感情の起伏も激しく、時に介護職員に対して厳しい言葉を投げつける人というものだった。

Kさんが特に攻撃の的とするのは若い女性職員であり、年配の女性職員や男性職員には、比較的穏やかに接する傾向があったようである。
罵声を浴びる介護職員
若い女性職員の介護の仕方が気に食わないと、声を荒げて人格攻撃するようなこともあったらしく、一部の職員は、「Kさんは怖い」という気持ちを抱いて業務に就いているような状態も見られた。

Kさんは四肢に障害があるが、上肢は軽度麻痺で巧緻動作の援助を行えば食事は自力摂取可能だった。下肢障害は上肢より重度で、立位の際に足に力を入れて立ち上がる際の動作協力はできるものの、歩行や立位保持は困難であった。

そのため移乗介助が必要なのだが、気に入らない職員の介護を受ける際に、本来は力を入れることができる足に全く力を入れず、動作協力をしないという問題があった。

動作協力してもらえない職員にとっては、体重の重たいKさんから全体重をあづけられる移乗介助は非常に困難な介助となり、時としてそれは二人介助を要するのではないかという意見も出された。

しかし動作協力してもらうことができる職員にとって、Kさんの移乗介助はなんら問題のない簡単な行為であったため、二人介助が必要となる意味が理解できなかった。

ケアカンファレスで、こうした職員間の意識差が明らかになったことで、Kさんが動作協力したり・しなかったり、介助する人を見て変えていることが分かったのである。

こうした状態は、動作協力してもらえない職員にとっては、ある種のイジメと捉えられても仕方のないことのように思えた。しかもその理由が、「若くてかわいくて周りからちやほやされそうで憎らしい」という本人に責任のない理不尽な理由でしかないのだからどうしようもない・・・。(※断っておくが、実際に僕たちが当該職員をちやほや持ち上げていたという事実はない

しかし動作協力しないことで、介助中の転倒事故ということもあり得るので、こうした差別的行為は、Kさんにとってもリスクのある行為と言え、それは一つもメリットのある行為とは思えなかった。

そのためKさんに対して、相談員や介護支援専門員が面接して気持ちを確認したり、改善のお願いをしたりするなどの努力をしたが、その場では理解してくれたような態度を取ってくれたものの、介護場面での人を見ての差別的扱いは終始変わらなかった。

面接場面・話し合う場面では、その都度納得してくれるような反応を見せてくれるのであるが、相変わらず気に入らない職員への動作協力はしてくれないままであった。人の感情は、簡単に変えられないという証拠だろうか・・・。

それは私たちのアプローチの方法が悪かったのかもしれないし、努力不足と誹られても仕方のないことだとは思うが、どちらにしても感情のある人間相手だからこそ、このような困難が生ずるのである。

ここは理屈でどうこうできる問題ではないのだ。

こうした科学できない人の感情と毎日向き合って、その都度対応策を考えなければならないのが介護という職業なのである。そうした職業のうち、どの程度の行為を科学的に結果に結びつけられるのだろうか。

科学的介護という言葉が盛んに唱えられる時代に、私たちはそうした非科学的なものにも向き合いつつ、現場発の根拠ある介護実践に努めようと毎日思い悩み、考え続けている。

厚労省の人たちは、こうした日々の介護実践に努めようとしている人がいることを知っているのだろうか・・・。そしてそのアウトカムをどう評価しようというのだろうか。
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