牛丼チェーン大手の店舗で、一人で夜勤をしていた女性スタッフが朝方に倒れて亡くなったことを受けて、医療職・介護職・福祉職でつくる労働組合の「なくせワンオペ!プロジェクト」が10日に声明を発表した。

その声明は、介護事業でのワンオペ夜勤も労働者の安全管理に欠くとして、複数配置を原則として基準や報酬を引き上げるようにと訴える内容だ。

今更言うまでもなくワンオペとは、ワンオペレーションの略であり、勤務時間に求められる作業をすべて一人でこなすことを意味している。

介護事業におけるワンオペ夜勤は、利用者が全員眠っている時間だから可能だろうと安易に考えられている節がある。しかしそんなことはあり得ず、眠らずに徘徊する人や、不眠を訴える人に対応したり、排泄介助を行ったりするなど様々な状況に随時対応しながら、一人ですべての判断をし、利用者に必要な介護をこなさねばならない。

そうであるがゆえに、その業務は飲食業よりも過酷だと言え、なくせワンオペ!プロジェクトの声明は決して不当要求ではないし、労働者側からすれば極めてまっとうな主張と言ってよい。

しかし国の方針は全くこれに逆行しているといってよい。例えば2021年度の基準改正では、「見守り機器等を導入した場合の夜間における人員配置基準の緩和」が行われている。

この新基準を適用することで、夜勤時間帯に一人で60人もの利用者に対応しなければならないワンオペ時間帯が増える結果になっているのである。(※参照:特養で夜勤する人がいなくなるかもしれない緩和策

さらに国は、2024年度の制度改正・報酬改定に向けて、ICTなどの活用による業務の効率化を引き続き後押ししていく構えを見せている。

例えば今月4日に宮崎県宮崎市で開催された日本介護支援専門員協会の全国大会で、老健局「認知症施策・地域介護推進課」の笹子宗一郎課長が講演し、「より少ない人手でも回る医療・介護の現場を実現することが必要」・「日本全体が同様の状態になる。医療・介護だけが例外ということはない」と述べている。

このように国は、業務の効率化による配置基準緩和を推進しようとしているわけであるが、それは結果的に介護労働におけるワンオペ夜勤を増やす結果にならざるを得ない。少なくとも現行ワンオペ対応している業務やその時間帯に、今以上に人手をかける改正を行う姿勢ではない。

なくせワンオペ!プロジェクト」の声明は、それに異を唱えたものであり、正論がちがちの声明であると言ってよいが、果たして国はその主張に少しで耳を傾ける姿勢を見せるだろうか・・・。
ワンオペ介護の実態
今のところそれは期待薄と言うしかないが、そもそも介護事業におけるワンオペ夜勤を解消しようとして、仮に介護報酬がその分上がると想定しても、介護事業のワンオペ夜勤をすべて解消できるほど人材を確保できるのだろうか?

それは甚だ疑問で、頭の痛い問題である。

さすれば現実的に介護事業におけるワンオペ夜勤を解消させるためには、現行夜勤者一人しか配置する必要のない1ユニットのGHなどをなくして、事業規模の拡大を図る中で複数の夜勤者を配置することにより、ワンオペ夜勤を解消するしか方策はないように思う。

介護人材を確保することは今でさえ難しいのに、小規模の事業所までくまなく複数夜勤者が確保できるほど、介護人材の数を確保することは考えにくい。そして今後はその困難さがさらに増すからである。

現実には小規模事業者をなくすことはできないから、なくせワンオペ!プロジェクトの声明は無視されて終わる可能性が高いのが現状である。

しかも施設単位で観ればワンオペ夜勤ではない一定規模施設の夜勤業務も、ユニット単位・フロア単位はワンオペ対応と言え、そこにも問題は存在すると言える状態だ。

そう考えると、複数の職員で夜勤体制を組める事業の場合でも、実質ワンオペ夜勤とならぬような工夫が必要とされるのではないだろうか。例えばインカムを夜勤者の通常装備品であると意識改革し、夜勤中はフロアを横断して夜勤者同士がコミュニケーションを随時取れる体制にする必要があるのではないかと思う。

ワンオペを解消できない小規模事業についても、インカムを通常装備した夜勤者が、外部のオペレーターと随時更新可能なシステム構築を考えてはどうか。

市町村ごとにワンオペ夜勤をせざるを得ない複数の介護施設及び医療機関を網羅するオペレーションセンターを設立するようにするなども考えられてよいと思う。そちらの方が全事業所の夜勤者を複数にするより現実的だろう。「より少ない人手でも回る医療・介護の現場を実現することが必要」というなら、この部分に予算出動することがあっても良いのではないのか・・・。

ワンオペ夜勤には、ワンオペ勤務している職員の問題とは別に、その交代要員として自宅で待機している職員の問題も浮き彫りになってくる。多くの場合待機手当がない状態で、何かあったら誰それが対応当番という慣例で夜を過ごしている人が数多くいる実態も問題にされなければならない。

だからこそ社会全体の労働力が減る中での、介護労働におけるワンオペ夜勤の解消を、外部機関の連携なども含めて真剣に考えなければならないと思う。

そうであるにもかかわらず、この問題に対する国の姿勢はあまりに消極的で、腰が重い。

もしかしたら、ワンオペ夜勤が国レベルで問題視されて、本気で対策しようとするためには、介護事業者でもワンオペ夜勤者の死亡ケースが発生して、それによって利用者がケアを受けられなくなるという問題が発生しなければならないのだろうか・・・。

それではあまりに対応が遅いと思うのであるが、それが現状のような気がして恐ろしい限りである。
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