このブログでは何度も指摘しているが、介護サービス従事者と利用者の関係は、家族でもなければ、友だちでもない。

私たちが介護という職業で生活の糧を得ている限り、そのサービスを利用する方々はすべて顧客であることは間違いのないところだ。そのために私たちは、介護サービスという目に見えない商品を売る対人援助のプロとして利用者と接する必要があるのだ。

そして私たちと利用者の方々の関係性とは、「信頼関係を構築して、はじめて効果が発揮される関係」だという意識が必要とされる。

その信頼関係の構築のために、ことさら言葉を崩して、フレンドリーなふりをするのは下品で知恵のない人のする行為であることに一日も早く気が付いてほしい。

介護という職業を通じて、信頼関係を構築するためには、何より真摯な態度が必要である。よって言葉遣いも丁寧でなければならないのである。
信頼を得る呼び方
そうであれば、どんな風に利用者を呼んだらいいかという問題が出てくる。サービス利用者であり、顧客である方々を、ちゃん付けや、ニックネームで呼ぶなんてことは常識外れも甚だしいが、だからと言って「」を付けて呼ばなければならないのかと悩む人がいるかもしれない。

僕はかねてから、利用者への呼びかけは、「名字+敬称」が最もふさわしいと思っている。その際に、年上の顧客であればなおさらのこと、「○○様」と呼びかけなければならないとか、「様」が最もふさわしいことになるのだろうか・・・。

そもそも「さま」と「さん」はどう違うのだろう。・・・一般的には、「さま」はあらたまった時に使うのに対して、「さん」には「さま」と較べると、敬意だけではなく親しみの気持ちが含まれることになり、「さん」が「さま」より失礼な言葉という意味ではない。

むしろ「さん」は、最も一般的な敬称とされており、口頭でも文書でも使われ、どの場面でも用いることに違和感が少ない敬称である。

さま」より、「さん」という敬称が一段下というわけでもないし、「さま」に替えて、「さん」と呼びかけることは、一段下に相手を見下すことにもならないのである。

むしろ「さん」という敬称は、一定の距離がある相手や、初対面で自分との関係が量れない相手にも付けることができる敬称なのだから、介護サービス利用者に対しても、「○○さん」と呼びかけて問題ないだろうと思う。

ところで昨日西宮で行った、「介護職としての使命」という講演に際して、事前に主催者から次のような投げかけがあった。
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関西だけかはわかりませんが、男性利用者を「お父さん」、女性利用者を「お母さん」と呼ぶことが非常に多いので、そこの指摘もよろしくお願いします。
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この呼びかけだけは絶対にしてはならないものである。

赤の他人から、「お父さん・お母さん」と呼ばれることに不快感を訴える人が多い現実は、「赤の他人 お父さん お母さん 呼ばれる」とネット検索すれば、それに対する不満や憤りの声があふれていることでも理解できるはずだ。

では年上の他人に、「お父さん」・「お母さん」と呼びかけることの問題は何なのだろうか?

高齢者の中には、「お父さん」や「お母さん」になりたくて、なれなかった人も少なくないのである。そうした人々は、赤の他人から「お父さん」や「お母さん」と呼びかけられるたびに、自分が親になれなかった悔しさや哀しさを思い出してしまうことになりかねない。

『私を、「お母さん」と呼ぶことができるのは、出征して戦地で亡くなった息子だけだ』と慟哭していたご婦人も居られた・・・。

勿論、そうした呼びかけに悪感情を持たない人も数多くいるのだろう。しかし僅かであっても、悪感情を持つ人がいるという現実がある以上、「お父さん」や「お母さん」という呼びかけ方は、人を傷つけかねないとして排除すべきである。

そもそも介護サービス従事者は、介護サービス利用者の氏名を知っているのだから、どこのだれかわからない人に声をかけるような方法をとるべきではないのだ。

きちんと名字に『さん』をつけるということが、「個別化」にもつながるといえるだろう。

様々な人生を歩んできた人々に、配慮のない声掛けで心を傷つけるというリスクを考えると、名字がわかっている利用者に対して、「お父さん」・「お母さん」と呼びかける必要性はゼロである。

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