看取り介護教育が不十分な事業者が多い現状(前編)】より続く。
特養や居住系施設等で看取り介護に携わる介護職員が、どんな不安を持っているのか、どんな知識と技術が欠落しているのかを知らない人が看取り介護を語っても意味がない。

介護職員等に対する看取り介護・ターミナルケア研修で、医師や看護師が講師を務めても、さっぱり意味ある話をしてくれないと感じるのはそのためである。

医師や看護師が常識として持っている知識であっても、介護職にその知識がないことも多い。それは介護職が医師や看護師より知的レベルが低いとか知性がないということではなく、教えられている内容が異なるという意味でしかない。

だからこそ看取り介護で必要な知識の中で、医療と看護の基礎知識としては当たり前であっても、介護の場では十分に浸透していない知識は何かということも意識して伝えなければならない。そうしないことには、看取り介護に必要な知識を介護職員は得ることができないまま、不安と疑問を解消できないまま手探り状態で看取り介護に携わり、バーンアウトしてしまうことが多いのである。
安らかな看取り介護のために
例えば、「下顎呼吸(かがくこきゅう)」について、それが死を目前にした人に起こる現象であって、呼吸する力が弱まることで、顎と喉の筋肉を使ってあえぐような呼吸状態になることを、医師や看護師で知らない人はいない。

しかし介護職員には、「下顎呼吸」がどのようなときに、なぜ起きるのかという理解どころか、その読み方さえも知らない人も存在するのだ。

ここも丁寧に説明しなければならない。この際に介護職員の中には、「苦しがっているのだから酸素吸入などの処置が必要ではないか?」という疑問を持つ人も多い。

この際に、「下顎呼吸は、死の直前に起こる現象ですから、もう意識がなく苦しくありませんので、酸素吸入する必要がありません」と教えるのは間違いである。

下顎呼吸とはどういう状態を引き起こす現象なのかを正しく伝えるとすれば、「下顎呼吸は、呼吸する力が弱くなって十分酸素を体内に取り込めないことによって起こる呼吸状態です。そのためこの状態になると体内の二酸化炭素濃度が上がって、脳内から麻薬物質であるエンドルフィンが出ます。そのためあえぐように苦しそうな呼吸状態に見えても、本人は苦しくないのです。ここで酸素吸入を行うと、体内の二酸化炭素濃度が下がってエンドルフィンが出なくなります。そのため逆に苦しむのです。だから下顎呼吸が起きた際に酸素吸入を行ってはなりません。」というふうに伝えるべきではないかと思う。

死の数日前から数時間前にかけて、口の中からゴロゴロという音が聞こえてくることがある。これは死前喘鳴(デスラッセル)という現象で、これも死が近い兆候であるが、この際に介護職員の多くが、「吸引しなくても良いのか?」という疑問を持つ。

しかし死前喘鳴は、喀痰がたまっているのではなく、喉の奥の粘膜の震える音なので、喀痰吸引を行っても看取り介護対象者を苦しめる結果にしかならない。そのことを説明しなければならないのに、そのような教育をまったく行わないまま看取り介護を行っている特養も多い。

すると死前喘鳴時の喀痰吸引や、下顎呼吸時の酸素吸入などを行わない理由がわからない介護職員は、特養という医療機関でない場所で看取り介護を行う結果、看取り介護対象者に必要な医療対応を行わずに苦しめて亡くなるという結果を生んだと勘違いし、ある種の罪悪感をもって介護を続けなければならなくなる。

その状態が苦しいと感じてしまうと、介護職を辞めてしまうことになる。

それだけならまだしも、そのような曖昧な知識で、疑問を抱えながら人の死という場面に対応し続ける人の中には、精神の疾患を生じさせてしまうような人も居る。そうなってはならないのである。そういう場所からは、一日も早く逃げ出したほうが良いとさえいえる。(参照:人によって合う職場は異なります

介護職員にとって、看取り介護に携わるために必要不可欠な知識とは何かということをきちんと整理して伝えなければ、看取り介護の場で介護職員は疑問を持ったままにされ、志の高い人ほど自らの行うべきことに迷い、苦しむのである。

そうならないように、死の直前に起こりうる身体の変化とその対応を、根拠に基づいてきちんと伝えることが、「看取り介護研修」として求められるのである。

例えば今年1月〜2月にかけて、120分×3回の日程で講義を行った、僕の看取り介護講演の内容は以下の通りである。
看取り介護の基礎知識
・看取り介護とはどのような介護か
・介護施設で看取り介護が求められる背景
・看取り介護に備えるために必要とされるリヴィングウイルの支援
・死を語る意味とは愛を語ること
看取り介護の開始から終了までの手順
・判定〜説明同意〜計画作成〜連絡・連携〜実施〜終了〜評価までの具体的な流れ
・必要な書式
・求められるPDCAサイクル
・看取り介護加算の算定要件
・職員のメンタルケア
・遺族のグリーフケア
看取り介護の実際
・介護施設で行われた看取り介護の事例
・看取り介護の今後の課題〜Withコロナの人生会議と看取り介護
・スピリチュアルペインの受容
・命の尊さを理解しながら看取り介護に関わる姿

このようなプログラムを組んで、その内容をかみ砕いて伝え、それを理解してもらうことで初めて介護職員は、看取り介護の場で自信をもって仕事ができ、自らの行為に誇りを持つことができるのである。そうなれば介護の仕事をやめたいと思う職員なんていなくなる。

そんな自信と勇気を持つことができる介護職員を育てるために、全国どこでもお手伝いに飛んでいくので、講演を打診する連絡をお気軽にしていただきたい。連絡は「北海道介護福祉道場 あかい花」の公式サイトの上部に掲載しているメールで行っていただきたい。

打ち合わせの結果、条件等が合わずに依頼につながらなくても構わないので、まずは連絡を頂ければ幸いである。
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※別ブログ「masaの血と骨と肉」と「masaの徒然草」もあります。お暇なときに覗きに来て下さい。

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