10月に臨時の介護報酬改定が行われる予定になっているが、それは介護職員処遇改善支援補助金が、「介護職員等ベースアップ等支援加算」に変わることによるもので、結果的にそれは1.13%のプラス改定となる。
これによって処遇改善のための加算は、介護職員処遇改善加算・介護職員等特定処遇改善加算に介護職員等ベースアップ等支援加算が加わることで3段階となり、介護報酬体系はますます複雑化することになる。
2024年度の報酬改定では、この3段階の加算を一本にまとめることができるかどうかが大きな論点の一つになると思われるが、それぞれに微妙に算定ルールや配分ルールが異なっており、統一はかなり困難だと言えそうだ。
どちらにしても今後の介護事業経営を考えれば、その3つの加算はすべて算定しなければならないし、それも最上位区分を算定したうえで、職員に配分していく必要がある。
これらの加算は算定額を下回った配分は許されないが、だからと言って算定額を超えた配分が求められているわけではない。算定額=配分額とすることも可とされるのであるし、定期昇給分も給与改善額として認められるので、この加算を算定することは、定期昇給原資を収益以外から得る結果ともなるために、介護事業経営上のデメリットはないと言って過言ではない。
よって介護事業者がこれらの加算を算定しないという選択肢はあり得ない。・・・本来ならば、そう考えるのが普通の考え方である。
しかし必ずしもそうなっていないことについては、先週木曜日に公表された、第34回社会保障審議会介護給付費分科会介護事業経営調査委員会(web会議)資料の中の、2021年9月30日時点での介護職員処遇改善加算・介護職員等特定処遇改善加算の加算届比率(取得率)を見ると明らかである。
その資料を読んで考えたことを、「きみの職場は見限るべき職場になってはいないか」という記事にまとめたのが3/25であった。
ここで書いたように、同じ法人内であっても介護保険事業者内だけの問題であれば、加算配分が出いる職員の定期昇給原資を加算に求め、それによって加算算定前に収益から介護職員の定期昇給原資としていた分を、加算配分ができない職員の原資に回すことで、その他の職種の定期昇給額も引き上げることができ、職種間格差は縮小できる可能性もある。
ところが問題は経営母体が介護施設でない場合の障壁である。
例えば医療機関が母体であって、老健や通所リハ事業所などを経営しているケースが問題となる。介護職員の給与原資となる加算については、介護報酬には存在していても診療報酬にはそれがないのだから、経験年数が同じ介護職員であっても母体医療機関と関連介護事業者間では給与格差が生ずることになる。
この差を埋めようとすればどうしても母体医療機関の持ち出しが増えることになり、その額は母体の規模が大きければ大きいほど多額になる。よってそれはできないと考えて、なおかつそうした所属事業者の違いによるだけの給与格差は不公平だと考えて、介護事業者においてあえて処遇改善関連加算を算定しない=加算による給与改善を行わないとしている法人も少なくない。
加算取得率の低さは、こうした一面も影響しているのである。
しかしその状況をやむを得ないとか、経営上仕方がないと考えている経営者や管理職がいるとしたら、それらの人たちの経営センスは、かなりやばいレベルだと言いたい。
介護職員の人材確保の困難さは、今後ますます増大するのだ。(参照:人材確保が益々難しくなる時代の介護事業戦略)
処遇改善関連加算を算定しない事業者と算定・配分する事業者の介護職員の月額給与格差は3万円以上となるだろう。労働者は決してバカではないのだから、この格差にいつまでも目をつぶってくれるわけがない。
そもそも介護福祉士養成校は、この加算を算定配分しない介護事業者に卒業生を紹介しない方針を打ち出しているところもあるのだ。
こうした状況から考えても、加算をあえて算定しないという事業者には、人材は集まらないし離職者も増えるだろう。それは最大の事業危機であることに気づかない経営者や管理職は、その能力が問われるだろう。
母体医療機関と介護事業者の給与格差は、診療報酬と介護報酬の仕組みや、国の政策を懇切丁寧に職員に対し説明すればよいのである。給与格差は、介護職員のステータスを介護事業者で就業できる動機づけに昇華したり、定期的な人事異動などで縮小を図るなどの工夫をするなどして、なんとしても加算算定=給与改善を行わねばならないのだ。
そもそも一部の職員だけが昇給する不公平を唱える人が多いが、もともと医療機関では医師とその他の職員には大きな給与差が存在しているし、看護職員と介護職員にも大きな給与差が存在している。その差が少し埋まるだけの加算配分であり、その他の職員の給与が下げられるわけではないのだから、この加算だけを取り上げて不公平だとする論調自体がおかしいのである。
他人の給料が上がって、自分が上がらないことをいちいち問題視するようなせこいことを言うなと言いたい。そんな了見で人としての成長があるのかと言いたい。
一部の職員の給与改善は、他の職員の給与改善の始まりであると捉えればよいだけの話ではないか。
処遇改善加算は、国が国費や保険料を利用して、介護職員の給与改善を行うために設置している加算であり、それぞれの所属事業者で算定配分する仕組みとしているのだから、事業者はその責任を果たせと言いたい。
それを理解しようとしない介護事業者に未来はない。
勝手な理屈でその責任を果たそうとしない介護事業者は、労働者から搾取していると言われても言い訳ができない。そういう事業者に努めている介護職員の方々は、一日も早く転職先を探したほうが良いだろう。(参照:従業員を愛し大切にする職場を選んでください)
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