今週の火曜日(3/8)と水曜日(3/9)に連続して、介護事業者内で起こった事件の判決が出された。
高山市の介護老人保健施設「それいゆ」の元職員、小鳥剛被告(36)が、入所していた女性の首を絞めて骨を折るなどの暴行を加え死亡させたなどとして傷害致死などの罪に問われた裁判は(参照:老健で5人が死傷した事件の初公判)、犯行の直接的な証拠がない中で医師や元同僚など25人の証人尋問が行われた。
検察が「犯行が可能なのは被告人以外考えられない。被害者への行為は弱者へのうっぷん晴らしだと容易に想像でき短期間に連続して行われた悪質な犯行だ」など述べて懲役12年を求刑したのに対し、弁護側は「決定的な証拠もないのに同一犯であることに固執し、消去法的な推論をしている」などと述べ、一貫して無罪を主張していた。
しかし8日の判決公判で、岐阜地方裁判所の出口博章裁判長は、「複数の骨折は故意によるものであることは明らか」・「介護行為などでできた事故によるものではないという解剖医の証言は十分に信用できる」などとして、求刑通り懲役12年の判決を言い渡した。
状況証拠だけで、他にさしたる証拠がない中での難しい判決の結果である。罪状は殺人罪ではなく、傷害致死罪・・・。
今回の裁判では死傷した被害者2人の事件が対象になっているが、小鳥被告の在勤中のわずか半月の間に80代から90代の男女3人が亡くなり、2人が骨折などのけがをしている。事件の闇はまだ深いのではないかという声も聴かれる・・・。
この判決の翌日には、Sアミーユ川崎幸町事件の控訴審判決が示された。
8年前、神奈川県・川崎市の有料老人ホームで、入所者の男女3人が相次いで転落死した事件で、殺人の罪に問われた、元職員・今井隼人被告(29)に対する控訴審の判決公判で東京高裁は、死刑を言い渡した一審判決を支持し、被告側の控訴を棄却した。
高裁判決は、一審と同様に自白の信用性を認定したもので、動機についても「日々の業務の鬱憤(うっぷん)を、入所者の言動を契機に高じさせた」と指摘した。そして「被害者は3人にものぼり、殺意は強固で、老人ホームの職員である立場を利用した犯行の悪質性は際立っている」と断罪。「極刑をもって臨むことはやむを得ない」として被告側の控訴を退けている。
この裁判も防犯カメラなどの直接証拠がない中、状況証拠を積み上げ、3人が転落した時間帯に勤務していた今井被告の犯行と断定したものである。
「それいゆ事件」と「Sアミーユ川崎幸町事件」の唯一の違いは、前者の事件では小鳥被告が一貫して犯行を否認しているのに対し、後者の事件の今井被告は逮捕直後に犯行を認めて、のちに否認に転じている点である。
今井被告の1審裁判では、警察と検察による事情聴取際に、被告が犯行を自供している録音・録画の映像が証拠として採用されている。

どちらにしてもこの2つの裁判の判決で注目すべき点とは、密室化している介護施設(※本件では老健と特定施設の指定を受けている有料老人ホーム)の中で、職員が犯行に及んだものと推定される犯罪について、介護現場での状況証拠だけで犯行が断定され、判決に至ったものだということだ。
物的証拠がないからといって、犯人の逃げ得は許さないということを肯定的にとらえる人は多いだろう。物的証拠がないからといって誰も裁かれないのでは、被害者やその家族にとって到底納得できないことであり、それらの人も今回の判決は肯定的にとらえられていると思う。
しかしそれはある意味、怖いことでもある。
状況証拠という、見る人によって結果が違ってくるものによって推論的に断罪されるとすれば、当然のことながら冤罪の心配が生じてくる。
今回断罪を受けた2つの犯行については、同じように被害を受けている人が短期間に複数いることで、間違いなく事故や偶然ではないという推論は成り立つが、仮に裁判の対象となる被害者が一人しかいない場合はどうだろう。
Sアミーユ川崎幸町事件は、3人もの要介護高齢者がベランダの柵を乗り越える形で、3階から転落していることから、そんな偶然はあり得ないと推察できるが、仮に事件の被害者が一人しかいなかった場合、そうした推論は成り立たなくなる。
そもそも我々の人知の及ばないところで、偶然発生する事故がないとも言えない。
そうであるからこそ介護事業者は、利用者の命と暮らしを守る観点と同時に、従業員を冤罪事件に巻き込まれないように護る努力もすべきである。
録画機能のあるカメラ付きの見守りセンサーは、利用者の監視目的ではなく、プライベート空間の安全を保障するために必要な機器であると考え、その設置を積極的に行って、介護施設等で密室化する空間をできるだけ作らない努力も行うべきではないのだろうか。
そうした録画映像は、犯行の決定的証拠となるにとどまらず、間違った行為を行っていないという証拠にもなり得るものである。
そういう意味でも、利用者と従業員の双方を護る環境づくりのために、ICTや介護ロボット等を活用する視点がより以上に求められると思うのである。
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