公営団地や民間のアパートなどの集合住宅で、「感染予防のために外出は禁止、集合住宅内への外来者の来訪も禁止」という決定がされた場合、間違いなくそれは大問題となり、大きな争いに発展するだろう。

ところがこれが高齢者施設となると話は別で、要介護者以外が暮らしているサ高住であっても、感染予防のための外出・面会制限ということがいとも簡単に決定され、それがさしたる抵抗も受けずに実行に移されている。

高齢者が大半を占めている公営団地と、サ高住のどこにその違いがあるのだろう。これが差別の構造の一つであると言われないのはなぜだろう・・・。

感染拡大のピークアウトが指摘される地域もあるなか、高齢者施設のクラスター件数も減少に転じているとはいえ、感染者の数は第5波と比べても何倍も多い状態であるということが、その理由になるということか・・・しかし僕はどうしてもそれが正論とは思えないのである。

高齢者施設が外出や面会を、これほど長い期間禁止している状態は、いずれ歴史の審判を受ける必要がある。そうしないと、「他者の権利侵害」が事業経営者の判断で、いとも簡単に行ってよいという悪しき前例になってしまうと思う。

これほど長期間にわたって高齢者施設の外出・面会制限が続いていることに対する対する社会の反応も決して肯定的意見ばかりではない。

実際に巷から聞こえてくる声は、「家族を今施設にいれると、まともに会えなくなって可哀想」・「オンライン面会は高齢な親ではできない】・「オンライン面会は人数が限られるし、対応してもらう職員さんにも気を遣うので頼みにくい」・「中に入れないだけに、どんな対応をしてもらっているのかわからなくて不安」というものだ。

そんなふうに、地域住民・利用者家族・居宅ケアマネなどから不安の声が挙がっている現状を、高齢者施設関係者はきちんと認識するべきである。
温かな手を差し伸べて
そういう不安を払しょくするためにも、密室化してしまって第3者の目が届きにくい高齢者施設の中で、きちんと適切なケアサービスを提供できていることを証明しなければならない。サービスマナーの確立は、そのための重要アイテムである。

それにしても高齢者施設の経営者・管理職などの立場の人に勘違いしている人が多いように思う。管理上必要だと言って、簡単に施設利用者の権利を奪うような行為が見られる。

施設関係者が勘違いしているんじゃないかと思う例として、施設入所したとたん、本人より家族の希望や意見が優先されることがある。

しかし施設利用者であっても、自分のことは自分で決められるのが原則だ。高齢者にとって、子は家族であっても保護者ではないのだから、利用者本人が、「自分にはこれだけ貯金があるので、通帳を金庫に保管しておいてほしい。だけど息子にそのことは内緒にしておいてほしい」と要望を受けた場合に、その要望は原則受け入れられるべきなのだ。

それなのに、「息子さんは、身元引き受け人になっているので、そのようなことはできません」などとそうした要望を拒否する施設があったりする。

施設入所の際の、「身元引受け」とは、成年後見人のように本人に代わって代理権を持つような性格のものではない。身元引受けによって財産管理や身上監護ができることにはならないのだ。

施設入所の際の身元引受けの意味とは、死亡時に遺体や遺留金品を引き取り、利用していた居室を速やかに退去できるようにする人を定めているに過ぎないものなのだ。そこを管理買いしてはならない。

またよくあり例として、高齢者夫婦世帯の夫もしくは妻の一方が施設入所した場合、連れ合いが死亡したとき子供から、「父(もしくは母)のショックを考えると、母(もしくは父)の死を知らせず、そっと葬儀を済ませたいので、亡くなったことを知らせないでください。」と要望されることがある。

そんな要望に応えてしまう施設があることも変なことだと思う。

長年連れ添った伴侶を失うショックは計り知れないが、だからといって施設に入所している人が、大切な伴侶の死も知らされず、葬儀にも列席できないことをおかしいと思わない感覚はどうかしている。(参照:「死」を告げる意味と責任

そうしたショックを乗り越える支援する責任も、家族や対人援助の専門家にはあるはずなのだから、世間一般的に許されている行為を、施設入所者に限って認められない状態を作ってはならないのである。

そういう意味では、施設入所者に対するバリアというのは、施設関係者の心の中にいまだに存在するものだといっても良いのではないかと思う。

そうした偏見を取り払っていかないと、「介護施設の常識は、世間の非常識」という状態もなくならないのではないだろうか・・・。
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