大阪府門真市で、高齢女性のキャッシュカードを無断で持ち出し現金を盗んだとして、介護福祉士の資格を持つ訪問介護員が2月3日に逮捕された事件は、訪問介護で行ってよい行為と、そうではない行為の境界線を見誤っているのではないかと思える事件でもある。
窃盗の疑いで逮捕された栗栖翔吾容疑者(30)は、2021年6月からの約5ヵ月間、90代の女性のキャッシュカードを15回持ち出し、現金601万円を盗んだとされている。
女性は2021年12月に死亡しているが、警察が口座から不審な高額の出金を見つけ、事件が発覚したものだ。
栗栖容疑者は、7年前から被害女性の訪問介護を担当していたが、足腰が弱り外出が難しくなった女性から、2021年の春以降、現金の引き出しを任されており、カードの暗証番号を知らされていた模様である。
さすればキャッシュカードで預金を引き出すという行為を、訪問介護サービスとして行っていたということではないだろうか。
しかし本来そんなことは認められていない。そういう意味で、本件は訪問介護事業所の管理責任も問われる問題である。
預貯金の引き出しに関連して、訪問介護サービスとして行うことができる行為とは、本人が銀行を利用するために、ヘルパーが同行して銀行に出向くことを支援をする行為である。
預貯金の口座からの引き落としに関連して訪問介護として認められるのは、利用者にとって日常生活上で必要な支援と判断される、「外出介助」として認めらているだけなのである。
つまりヘルパーが行うことのできる支援は、銀行へ行くための支援であり、あくまでも外出時の見守りや介助のみという点である。よって、銀行でお金を引き出したり、引き出したお金を管理することは、介護保険上のサービスでは、「することができない行為」なのである。
銀行に付き添った際に、見守りの途中でATMを利用する方法を口頭でアドバイスすることであれば、ぎりぎり認められる行為といえるかもしれない。ただしこの際も、暗証番号などを聞き出して、それをヘルパーが打ち込むなどという行為は避けなければならない。
勘違いしている事業所では、キャッシュカードでの預金引き出しは認められていないが、預金通帳と印鑑を預かり、預金を引き出す行為は、一定金額の範囲で訪問介護としても認められるとしている場合がある。

しかしそれは大きな誤解である。預貯金の引き出しを本人以外が行う場合には、その都度委任状が必要になるが、それもなく他人の通帳と預金を使用して預金を引き出していることは、金融機関に対し本人を装って預金を引き出しているという犯罪とみなされても仕方がない行為である。(※例外として認められる振込行為については、後述するので確認してほしい)
そもそも訪問介護員員には代理権はないし、訪問介護は代理申請を行うことができないサービスだ。そんなことをすれば社労士法違反にも問われてしまう。
繰り返しになるが、利用者の金銭に関する内容(引き落とし、振り込み、支払い等)は、トラブルの原因に繋がる可能性が考えられるため、原則は、訪問介護のサービスとして認められていないのである。
ただし例外として、日常生活上において最低限必要な行為にかかる振込みについては対象となるケースもある。しかしそれは、各市区町村の介護保険上の判断により異なるので、あらかじめ確認が必要である。
そしてこの例外規定を拡大解釈してはならないという理解も必要である。
金銭の管理や預金引き出し代行については、成年後見制度や各市町村の社会福祉協議会が日常的な金銭管理の支援を目的として実施している、「日常生活自立支援事業」を利用すべきであり、訪問介護として行うべきサービスではないことを肝に銘じなければならない。
このあたりの理解があいまいだと、訪問介護事業管理者も後ろに手が回りかねないことになるのである。
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