今、すごく怖いなあと感じていることがある。
埼玉県ふじみ野市で起きた、『たてこもり殺人事件』の犯行動機や、実際の犯罪に至る経緯について、ネット記事を読んで感じる恐怖である。
この事件の容疑者の母親は、数年前から被害にあって亡くなられた鈴木医師の訪問診療を受けていたという。そして容疑者は納得がいかないことがあると鈴木医師に対して罵声を浴びせることもあったほか、胃瘻造設して在宅で経管栄養を行うのは『難しい』とされたことに不満を抱き、医師会にたびたび苦情を寄せていたそうだ。
容疑者は母親の診療方針をめぐって過去にほかの医療機関にも不満を訴え、治療や薬に対して自分の方針を貫こうとするなどしたため、病院側も対応に苦慮していたという報道もされていることから、いわゆるクレーマーと呼ばれる人ではなかったかと思われる。
それは母親に寄せる愛情が深かったためなのかもしれないが、利用者本人の状況に関係のないところに存在する家族の『思い』によって、医療や介護の在り方が左右されてはかなわないし、そんなことがあってはならない。
容疑者は、前日に母親の死亡確認を行った鈴木医師に対し、診療を担当していた医師を含む数人を名指ししたうえ翌日の午後9時ごろに自宅に来るよう求め、事件当日に自宅を訪れた鈴木医師などクリニックの関係者合わせて7人に対し、死後1日以上経過した母親に心臓マッサージをするよう求めるという、普通では考えられない要求をしている。

犯行は、鈴木医師から蘇生できないことを説明され、心臓マッサージを拒否された直後に行われたようである。
容疑者はまず最初に、鈴木医師を散弾銃で撃ち、次に理学療法士の男性を撃ったあと、医療相談員に催涙スプレーをかけた際に、持っていた散弾銃を奪い取られたため、もう1丁の散弾銃を発砲したという。そのため鈴木医師を除く6人が外に逃げると、容疑者は玄関にカギをかけて立てこもったようだ。
2丁の散弾銃をあらかじめ準備して行われた用意周到な殺人事件であるといえる。
利用者の家族がクレーマーだからといって、まさか銃を持っているなんて想像外である。何をどう気を付けるべきか、まったくわからなくなってしまう・・・。このような許しがたい犯罪で命を失われた鈴木医師が気の毒でならない。・・・報道によると、同医師は患者の立場に立って診療する評判の高い医師で、地域になくてはならない医療のプロであったとのこと。
大切な人の命が、こんな理不尽な理由と行為で失われたのは、なんとも悔しい限りである。合掌。
それにしても同じような恨みを介護事業者が買わないとも限らない・・・というよりも、実際に理不尽な理由で、利用者の家族から恨みを買ってしまうことがあるのではないだろうか・・・。
高齢者であるから、死に至るケースもたくさんあるだろう。その結果がいちいち気に食わないと言われてしまうのであれば、私たちは病状不安定な高齢者の方々に関りを持てなくなってしまう。
介護関係者は死亡した利用者の葬儀に参列することは普通に行っているし、ましてや家族に呼び出しを受けたら、きちんと説明責任を果たそうとして、その要求に応えるのも当たり前と思って駆けつける人が多いはずだ。
しかしこのような事件が起きると、そうした要求にも応えられなくなる。
僕も過去に、利用者の家族から理不尽なクレームをつけられて、対応に苦慮した覚えは少なからずある。
ショート利用中に体調が急変した責任をとれとか、病状の変化に対し、きちんと救急対応や受診対応を適切に行ったケースまで、文句を何時間も言われ続けられることは決して珍しいことではない。
こちらの説明に耳を貸さないケースについては、「どうぞしかるべき機関に訴えてください」として、市役所などの苦情窓口を紹介して、そこを介して後日改めて説明を行ったケースもある。
そんなふうに、介護事業を長年行っていれば、利用者の家族の中に幾人か含まれてくるおかしな人に対応しなければならないことは必ずあるのだ。それは仕方のないことだとも思っていた。
しかし本件のような事件が起これば話は別だ。
利用者本人の状況を判断して、専門家が最も適切と思われる対応をとっているにも関わらず、その方法が気にくわないとして、暴力に訴えられるとしたら、家族にクレーマーがいるとみなした時点で、対応を中止されてしまうサービス利用者が出てくる恐れもある。
そうなってしまうと、一番不利益を受けるのはクレーマーである家族ではなく、利用者自身になってしまう。そんなことになってはならないのである。
今年度の基準改正では、すべての介護事業者にハラスメント対策の強化が求められ、顧客やその家族からのカスタマーハラスメントへの対策も行わねばならないことになっている。
そのため顧客側の理不尽な要求に対しては、毅然とした対応が求められるわけであるが、それがまた顧客側の予測できない不平や不満につながりかねないことも念頭に置く必要があるだろう。
しかし真摯に対応し、真摯に説明することに努めても、それに対して全く聴く耳を持たない人に、私たちはどう対応したらよいのだろう・・・。
非常に悩ましい問題である。
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