福祉医療機構(WAM)が1月28日、2020年度の特別養護老人ホームの経営状況をまとめたリサーチレポートを新たに公表した。

それによると、「短期入所の利用率の低下や人件費率の上昇により赤字施設の割合は若干増加」と報告している。

短期入所の利用率低下はコロナ禍の影響であろうと思え、コロナ禍が終息すれば回復することは間違いのないところで、この点についてはあまり心配する必要はないのかもしれない。

詳細分析はリサーチレポートを読んで確認してほしいが、やはり気になるのは、「人件費の高騰」である。

レポートでも、「赤字化した施設は収益が伸び悩む中で人件費が増加している」としており、これは処遇改善加算等の介護給付費で手当てできる支出以上の人件費支出も増えていることを意味している。

現行3段階になっている処遇改善加算は、体系が変わったとしてもその分の給付は削られることはないだろうから、しっかりと最上位区分を算定し、職員に配分していく必要がある。しかしそれ以上に収益の中から人件費に回さなければならない支出も増えていくことも想定しておかねばならない。

だから収益を上げなければならないが、人が集まらずに顧客がいるのにサービスができないという状況になれば、それも不可能となり、ベッドの一部を休止して経営せざるを得ない介護施設は、満足な人件費手当てがさらに難しくなり、そこからは人材が流出し続けるという悪循環に陥りかねない。

だが今後の日本社会は、後期高齢者が2042年頃まで増え続ける中で、社会全体の人口は減少し続ける社会である。しかも少子化の影響で、生産年齢人口の割合は今より大幅に減ることもわかりきっている。

それは社会全体の労働力が減るなかで、介護サービスの顧客は2042年頃まで増え続けることを意味している。

よってすべての介護事業者が、すべからく人材を確保できることにはならず、この部分を国の政策に頼っても無駄であるという結論にしかならない。

そうした状況に対応するために、外国人介護労働者を雇用する必要性も増すが、それで補える部分にも限りがあり、日本で生まれ住んでいる若者が働きたいと思うことができ、なおかつ定着できる職場環境を創っていかねばならない。

事業者独自で人材を確保する術を持っていなければならないのだ。それを持たない事業者は、派遣会社によりかかる比重を増やし、それで何とか人員を確保し当座をしのごうとするが、当座常時になってしまっている現状を変えなければ大変なことになる。

人材派遣会社へ支払うコストは、年々上昇しているが、そこまで介護給付費は見込んでいない。

しかも派遣職員はいかに有能であっても、職場の戦力とはみなせない。派遣職員が忠誠心を持つ先は、働いている事業者ではなく派遣会社かもしれないのである。

しかも派遣職員は仕事に責任を持たされるのを嫌う傾向にあり、後進を育てる姿勢に欠ける人も多い。自分にとって嫌なことがあれば、派遣先を変えてもらえばよいと考えている人もいて、結果的に短期間で辞めていく人も多くなる。

果たしてそういう職場の、「働く環境」が良くなることはあるのだろうか・・・。

このブログで何度も書いているが、介護福祉士養成校に入学する学生の動機は、「人の役に立つ仕事をしたい」というものが常にトップである。

派遣職員の比率が年々高まる職場が、そういう人たちにとって、「人に役立つ仕事ができる」と思いながら働くことができる職場環境といえるだろうか。現在、職場環境は良い職場といえても、派遣社員の比率が増し続ける中で、その環境をいつまで維持できるだろうか。

介護職員の入れ替わりが激しく、提供している介護サービスの質やレベルが低いとみなされる職場は、「人の役に立っていない職場である」として若い介護人材が働きたいと思える職場ではなくなり、ますます採用募集に応募がなくなる。

この悪循環を断ち切る唯一の方法は、介護事業の本質に立ち返って考えることだ。
介護事業者
人の役に立つ介護・利用者の暮らしぶりをよくする介護を目指し、その理念に共感する人材を集め、そうした人材がやりがいを感じて、働き続けられる介護事業を確立することだ。

職員給与を引き上げることも大事だが、それには自ずと限界がある。給料や手当以外の付加価値を感じてもらって、働きたい職場・働き続けたい職場としていくことが大事だ。

サービスマナー意識の浸透は、その基盤となるものだから、繰り返しそれが守られているかというチェックが必要だ。利用者に対するマナーが低下しない継続的な教育は最も重要である。

そうした地道な取り組みを続ける介護事業が、有能な介護人材にとって魅力のある職場となり、人材から選ばれる職場になる。それによって介護の品質がさらにアップし、ますます有能な人材があこがれる職場になっていく。それは結果的に顧客からも選ばれていくことにつながるだろう。

そういう介護事業者が実際にあることを教訓として、新しい介護事業経営戦略を練っていくことが何よりも重要である。

この理屈は簡単なのだ。難しいのは実行・実践である。だがそれは経営者の覚悟という、腹積もり一つで現実化できるものであることを理解してほしいと思う。

そのお手伝いが必要であれば、いつでも声をかけていただきたい。力になれると思う。
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