経団連が先週、医療・介護分野のDX(デジタルトランスフォーメーション)の推進に向けた新たな提言を公表した。

その中の、「介護」では、「介護施設人員基準 3:1の見直し」が声高らかに提言されている。

当該文書では、「2040年度までに、2019年度時点と比べて約69万人の介護職員を追加で確保しなければならない。生産年齢人口が減少するなかで非常に厳しい状況にある。この問題の解決策として、テクノロジーを活用した介護業務の効率化、さまざまな医療・介護データを活用した重症化予防や自立支援介護が注目されている。」としたうえで、「介護ロボットやICTの導入が介護の質向上や効率化に寄与することが明らかになってきた。」と理論展開している。

そしてそのことを根拠として、「利用者にとっての品質確保、職員の負担軽減が図られ、テクノロジー・データ活用による業務時間の削減効果が認められる場合、その改善効果の範囲で配置すべき員数を見直すべきである。」として3:1配置の見直しを求めている。

それは即ち介護施設の配置基準を緩めて、もっと人の少ない配置を認めるという提言に他ならない。その先には、配置人員を現在より少なくしてコストも減るのだから、介護報酬の基本サービス費も下げられるだろうという理屈に結びつけていくことも容易に想像がつく。

経団連は今更言うまでもなく、日本経済団体連合会の略称である。この団体は日本の代表的な企業や業種別全国団体・地方別経済団体などから構成されているもので、もともとは戦後の日本経済の再建・復興を目指して設立されたものである。

現在では政府等に対して、多岐にわたる政策提言を行っているが、その目的については、「日本の経済を元気にすること、それが日本経団連の一番大きな役割」とアナウンスしている。

介護保険制度に関連しても影響力は小さくない。介護給付費分科会にも常務理事を委員として送り込んで、過去にも様々な給付制限等に言及しているところだ。それは企業等の社員の介護保険料を労使折半で負担している大企業を代表する立場から、労使双方の保険料負担を減らすことを目的としているものである。

今回の配置基準緩和提言もその一つであり、「またか」という感はあるが、決して放置してよい問題ではない。

本当に配置基準緩和されてしまえば、職員に負担がかかるのは間違いない結果で、重労働化を嫌って介護施設で働く人がいなくなるからである。基準緩和は介護人材対策になるどころか、介護崩壊につながりかねない問題なのだ。
夜勤介護
そもそも経団連は、介護施設が実際に3:1の職員配置で運営されているのかを調査しているのだろうか。多分そんなことはしておらず、実態を見ずに基準だけを念頭に提言を行っているのだと思う。

3:1とはその日働く職員の比率ではなく、配置されている職員比率の最低基準であるが、実際に対利用者比3:1しか職員を配置していない介護施設はほとんどない。そんな配置では仕事が回らないし、職員はまともに休みも取れなくなるからだ。

3:1しか配置していない場合には、全職員が有給休暇を完全消化するなんてことは絶対に不可能だが、そんな実態を経団連は知っているのだろうか。そしてそのことを経団連は許すとでもいうのだろうか。

最低基準配置しかしていない場合は、最低基準のケアしかできないし、それもままならなくなることが多いが、利用者はそれで満足できるのだろうか。

見守りセンサーが反応して対応するのがロボットであれば人は減らすことが可能になるだろうが、見守りセンサーに対応するのは人なのである。配置を減らして高性能センサーを多用する中で、センサー反応のコールが鳴り響く中で、いったい誰がセンサー反応に対応するというのだろうか。

なぜ仕事が3:1では回らないのかという問いかけに対しては逆に、「そもそもなぜ3:1が配置基準なのか。それは十分介護が提供できる基準として設定されているのか」・「介護保険制度開始以後、サービスの品質向上を報酬改定のたびに求められているのに、なぜ同じ配置基準のままなのか」・「やむを得ず配置人員が多い日と少ない日が生じてしまうが、そこでサービスの質の差が生ずることに目をつぶってよいのか」等々の問題を問いたい。

根本的な問題として、経団連は介護労働の実態を知って提言しているのだろうか。

試しに経団連の役員の幾人かを1週間介護施設に派遣し、体験実習を行ったうえで、本当にテクノロジーの活用で、人員配置を減らすことができるのかを考えてみてはいかがだろうか。

今日の記事は、あまりに乱暴で荒唐無稽な経団連の提言に対して、冷静さを欠いたまま、まとまりのない文章になっていると思う。

それだけ怒りをもって書いていることを知っていただければよいのだと思う。悪しからず・・・。
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