今から約1年前となる2021年1月21日に、「老老介護」殺人事件が仙台市で発生している。
その事件の判決が下されたのは、昨年も押し詰まった12/2のことであった。仙台地裁は被告である妻に懲役3年・執行猶予5年の有罪判決を言い渡した。判決言い渡しを、被告の妻は車いすに乗ったまま聞いていたそうである。
83歳の妻が、自ら介護していた要介護3の夫(85歳)を、自宅で首と腹を包丁で刺して殺害した事件は、妻が将来を悲観し、「一緒に死ぬつもり」で夫を刺殺したものである。
加害者となった妻自身も要支援1で、事件の3日前に腰の圧迫骨折と診断されていた。
夫婦は仙台市内の市営住宅で2人暮らしだった。夫の介護は2019年12月から始まったが、当初は身の回りのことを手を添えて手伝う程度のいわゆる、「軽介護」であったという。
そんな夫の様子が「天と地ほどに変わってしまった」のは2020年8月のことであったと被告は供述している。
病状が不安定なため、入退院を繰り返していた夫ではあったが、新型コロナのため面会できなかった3週間の入院を終え、2020年8月に退院した際に認知機能が低下し自力歩行も困難になっていた。そのため毎晩2回は起きて、おむつの交換をしなければならなかった。
夫の居宅サービス計画を立案していた担当のケアマネジャーも、その状態は把握しており、訪問介護サービスを利用することを妻に提案したが、「家のことくらい自分でできる」と被告は断っている。
その時の心境について被告は、「家の中のことは他人に話したくなかった。」と供述し、2人の子供に対しても助けを求めなかった。
そのため被害者となった夫が、事件当時利用していたサービスは、デイサービスとショートステイのみだった。
事件当日、被告は腰が痛くてトイレにも這っていくほどだった。食事もとれず薬も飲めなかったそうである。
夕方、夫が2泊3日のショートステイから帰宅し、夕ごはんを食べさせなければと思ったが、被告は体を動かせなかったそうである。その時に、「これ以上介護を続けるのは難しい。夫とともに死のう」と思ったという。
判決の際裁判長は、「被告の辛抱強い性格とその置かれた境遇や立場からすると、介護保険制度の内容を十分理解できず、制度に大きく頼ろうとしなかったことはやむを得ず、子供たちが父親の介護のことをあまり気にかけていなかった状況からすると、被告が周囲に協力を求めなかったことを取り立てて非難することはできない」などと述べている。
この事件は、被害者の担当ケアマネジャーにとってもショックであったろう。被告の夫に対する介護負担が増えることを見据えて、サービスの変更(訪問サービスの導入)を視野に入れながらも、被告が拒否したことによって、それを見送ったことに悔いを残しているのではないだろうか。
しかし神ならざる私たちが、利用者や家族の心の奥底まで、すべからく真実を覗き見ることなんか不可能である。被告のサービス拒否の際の心理状態を正しく把握できなかったとしても、それはケアマネジャーの能力の問題ではないのだから、責任感を持ちすぎて、あまり悩まないでほしいと思う。
認知症のない主介護者の拒否は、「大丈夫」・「問題ない」という意思表示だと思ってしまうのは仕方がないことだ。しかし実際にはそこに、家庭内にまで他人が足を踏み入れることへの拒否感とか、そこまでサービスを受けることの抵抗感など、様々な思いがあるということだろう。
私たちは、本件から改めてその教訓を受け止める必要があるだろう。
判決の際裁判長が指摘した、「介護保険制度の内容を十分理解できず、制度に大きく頼ろうとしなかったことはやむを得ず〜」という問題も、真摯に受け止めなければならない。
利用者や家族は、私たちのように制度の深い知識はないのだという前提で、かみ砕いてわかりやすく、難しい制度を説明しなければならない。そうした能力もケアマネジャーには求められるのだと思う。
サービス利用がれっきとした権利であると考えられない人がまだ世の中には数多くいることを、私たちはこの事件から思い知らされた。
被告が寝ていた夫を包丁で2回刺した際には、「誰かに助けを求めることも思い浮かばなかった」と供述している。切羽詰まったときに、思考能力は正常ではなくなるのだろう。
そこまで追い込まれないうちに、どのように切迫した状態を発見したり、表面化させることができるのかが今後の大きな課題だ。地域ケア会議では、ぜひそのことを議論してほしい。
2019年度の国民生活基礎調査(厚労省)によると、要介護者と同居している介護者の年齢の組み合わせでは、65歳以上同士が59.7%に上っており、75歳以上同士の割合も33.1%に達している。

そうした世帯の人々が抱える暮らしの問題は、今後もより深刻化の一途をたどるだろう。
介護サービスを利用しているからといって、そこに隠された介護問題など存在しないと思い込まないようにしなければならないというのが、本件の教訓だ。
常に何か問題が生じていないかとアンテナを張りながら、自宅訪問モニタリングなどの際に確認をしたいものである。そのように意識して、身近なケースから、「発見する福祉</span>」を実現していかねばならない。
それより何にも増して、利用者や家族の本音を引き出すラポール関係を形成することの重要性を改めて感じざるを得ない。
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