介護保険施設等の居住系施設は、その種別に応じて目的と機能が多少異なるとはいえ、利用者が(限られたある一定時期であるとしても)暮らしを営む場所であることに変わりはない。
要介護者が暮らしを営む場所であるという意味は、心身に何らかの不便を抱えている人の暮らしを支えながら、その尊厳を守り安心して安全に暮らすことができる場所にしなければならないということだ。
これは理想とするような問題ではなく、経営者や従業員がごく当たり前に認識すべき意識であり、ごく普通に実現すべき責任でもある。
しかるにその安心と安全が脅かされる事件が数多く起こっている。
このブログの「事件・ニュース」というカテゴリーに昨年取り上げた事件だけでも、信じがたい卑劣で残虐ともいえる事件が介護施設で複数件引き起こされている。
昨年8月に書いた、「介護ストレス殺人ではなく強姦致死だったという卑劣な事件」という記事では、山梨県南アルプス市の有料老人ホーム「わたぼうし」で起こった強姦致死事件を取り上げているが、ここでは夜勤中の職員が、ご夫婦で入所していた妻をトイレ介助するとして、トイレ内で強姦に及び、抵抗しないように首を絞めて殺害に至るという、人として決して許されない卑劣な行為に及んでいる。
そのほかにも様々な犯罪行為が介護施設で起きている。
昨日(1/11)は、岐阜地裁で昨年12月に、「老健で5人が死傷した事件の初公判」という記事の中で紹介した被告の裁判が開かれた。
この事件は2017年7月末から8月中旬にかけて、岐阜県高山市の介護老人保健施設「それいゆ」にて80〜90代の入所者3人が死亡、2人が負傷した事件だが、昨日の裁判で被告は、当時の状況確認の質問に、「覚えていない」と繰り返している。
被告は入所者に食事を出すときに、「この肉、動物を殺したものなんだよ」と言う場面もあり、その際に注意をしたことなどもあると同僚が語っており、そもそも対人援助に最も適していない人間ではなかったかと疑われるだけでなく、サイコパス気質も疑われている。
しかし被告は、これまでの裁判でも起訴内容を一貫して否認している。この事件では犯行の瞬間を目撃した職員やその様子を捉えた防犯カメラなどの直接証拠がなく、「被告が犯人であるか」が最大の争点となっている。そもそも立件されているのは傷害致死と傷害の2件のみであり、残りの3件の死亡・傷害については立件されていない。
一審の判決は明後日1/14に出される予定だが、果たしてその結果はどうなるだろう。
昨年12月に逮捕に至った事件としては、もう一つ恐ろしい殺人事件があった。
茨城県古河市の介護老人保健施設「けやきの舎」で、2020年7月に看護師資格元介護職員(36)が、入所者に注射筒(シリンジ)で空気を注入されて死亡したとされる事件は、大きな広がりを見せる様相を呈している。
最初の容疑による逮捕に続いて、昨年12/29にも別の利用者の殺人容疑で再逮捕されているからだ。しかし事件の被害者は、その逮捕による被害者2名にとどまらないかもしれない。
容疑者は2020年4月から「けやきの舎」に勤めていたそうだが、急死したのは殺人容疑で逮捕された2件の被害者だけではないそうであり、他にも不審な死をとげた方がいて、大量殺害の疑いも持たれている。
被害者と容疑者との間に大きなトラブルはなかったとされていることから、この事件もサイコパスによる快楽殺人ではないかという疑いがぬぐい切れない。
サイコパスといえば、Sアミーユ川崎幸町で起きた老人ホーム連続殺人事件も記憶に新しいところだ。
事件の容疑者や被告となった人物は、ある場面では犯行とは別な顔を持ち、中にはその能力や資格に期待を持たれていた人物もいたりする。

どちらにしても採用面接で、応募者に犯罪気質があるかどうかなど判断できないし、教育でどうなるという問題でもない。
犯罪気質を持った人間であっても、採用後も目に付く場面で仕事を滞りなく行えているなら、陰で卑劣な行為に及んでいるのではないかなど想像の及ばない範囲である。
そもそもこんな事件が起きるたびに、事件は氷山の一角だといわれ、多くの介護施設が虐待を隠しているように見られてしまうが、介護施設や事業所で働く大多数の職員は事件や虐待とは無縁な健全な精神の持ち主である。
その中には、人に相対する仕事に就くために生まれてきたのではないかと思えるほど、人に対して優しく愛情をもって接する職員も少なくはない。
そういう人たちが、わずか数人のおかしな人間が介護事業者に交じって引き起こした事件によって、十把一絡げ(じっぱひとからげ)に見られてしまうのでは、あまりに可哀そうだ。
だからこそこうした事件をどう防ぐのか、犯罪気質のある職員をどう見抜くのかということを真剣に考える必要があるが、その答えはなかなか見つからない。
そうした犯罪を防ぐためには、利用者一人一人の介護場面をくまなく確認できるように、施設のいたるところにモニターカメラを設置するしかないのだろうか。
どちらにしても、介護施設での殺人事件が毎年複数起きているという事実に、大いなる危機感を感じざるを得ない。・・・こんな状態は、「仕方がない」とあきらめたり、放置したりすべき問題ではないと思うのである。
社会の信用を失わないためにも、健全で安心・安全な介護施設を作る不断の努力が介護事業経営者には求められるのである。
密室化して見えない部分であっても、介護のプロとしての矜持を失わない仕事ができる職場環境と、職員の資質を作り上げるために、経営者や管理職は何をすべきなのだろうか。
まずは自分を律して対人援助という仕事にかかわるにふさわしい姿を、従業員に示すことが重要だろう・・・。それは言うまでもないことだが、それだけで問題解決にはならないことが、この問題の根深さと深刻さを示しているといえる。
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