介護事業経営者の中には、年末年始の休み期間に、「処遇改善補助金」の配分をどうしようかと悩んでいた人が多いだろう。

なぜなら目前に迫っている2月から賃上げを実施していないと、補助金の交付が受けられなくなるからだ。(※補助額の3分の2以上はベースアップに使用することとされているが、2月、3月の賃上げに限り、就業規則の改正などに要する時間も考慮し、一時金のみによる賃上げも認められている。

実際の申請は都道府県における準備等を勘案し、令和4年4月から受付を開始して、6月から補助金を毎月分交付することになるが、事前に補助金額を計算して、2月からいくら配分できるのかというシミュレーションをしておく必要がある。

補助金対象となっている事業所については、他の職員の処遇改善にこの処遇改善の収入を充てることができるよう柔軟な運用が認められているので、その判断もしなければならない。そのうえで2月に、誰と誰にいくら一時金等として支給すべきかという決定を、今月中にしなければならないだろう。

その答えを出すために、実際に自分が経営する事業所が、いくらの補助金を受け取ることができるのかを計算した人も多いだろう。

そしてその中には、「月額9.000円も給与上げられないじゃないか!!」と憤っている人も多いと思う。

そこで補助金の計算式を改めてみてみよう。

処遇改善補助金は、介護職員処遇改善加算とは計算方法が異なり、総報酬に交付率を乗じるため、総単位数+処遇加算+特定加算×地域単価×交付率補助金額となる。ここを間違えないようにしてほしい。(※交付率は、こちらの資料の最終ページに掲載されている。

この計算式に数字を当てはめてみると、とてもじゃないけど月9.000円の改善額にならない事業者が多くなるはずである。

なぜなら国は補助金の交付率を、平均給付費金額と最低人員配置基準をもとにして決めているからである。

つまり平均給付費より少ない(要するに収益が平均以下)もしくは、人員配置基準より上回った職員数を配置している場合は、その分だけ9千円から、どんどん遠ざかった額になっていくのである。

しかし最低人員配置基準で運営している事業者はほとんどないと言えるのではないだろうか。

例えば特養の場合、「介護職員及び看護職員の総数は、常勤換算方法で、入所者の数が三又はその端数を増すごとに一以上」であり、このうち看護職員は、「入所者の数が三十を超えて五十を超えない指定介護老人福祉施設にあっては、常勤換算方法で、二以上」である。

よって最低基準配置であれば、介護職員15人+看護職員2人で良いわけであり、ベッド稼働率が全国平均を下回らずに運営したうえで、15人の介護職員に補助金をすべて均等に配分するとすれば、9.000円に近い数字になるわけである。

しかし50人定員の特養で、介護職員を常勤換算15人しか配置していない施設はほとんど見当たらない。20人を超えて配置している施設がほとんどだろう。

同じことは他の介護施設や、居宅サービス事業所にも言えるわけで、実際に配置している介護職員の数が補助金の算出根拠より数が多いので、仮に補助金を他の職種に回さずに、介護職員だけに均等分配した場合でも、介護職員全員の給与を月額9千円上げることができるというのは、机上の空論でしかない。
処遇改善補助金
売り上げによっては、その数字は5千円程度まで落ちてしまうであろう。しかも職場内のチームワーク等を考慮して、介護職以外の職員にも均等配分しようとすれば、一人に配分される金額はさらに減ることになり、事業所によっては給与改善月額が2千円程度でしかなくなるというケースも十分あり得るのだ。

しかし多くの介護職員が、そのような事情を知らないでいる。

世間では広く、『2月から介護職員の給料が月額9千円上がる』という報道がされており、自分の給料も2月から確実に9千円は上がると考えている介護職員は多いのである。さらにその人たちの一部からは、「月額9000円の賃上げでは不十分だ。インパクトも乏しく、現状と特に変わらない。」との声も聴こえてきている。

にもかかわらず給与改善額が月額9千円にはるかに届かないことが明らかになると、給与改善されたという事実を喜ぶ声はほとんどなくなり、国が示した改善額を下回った支給しか受けられないことへの失望感が大きくなるだろう。

失望した人の中からは、介護事業経営者が補助金を搾取し、介護職員に手当てするべき額を回していないのではないかと疑う人も出てくるだろう。その疑いの気持ちが経営者や管理職への不信感へと繋がり、さらに事業者への不信感となって、職場を去ろうとする人が出てくるかもしれない。

そんなふうに今回の補助金による給与改善が介護人材対策にはならず、逆に離職動機につながるという、まったくおかしな現象が生まれかねないのである。

だからこそ介護事業経営者には、介護職等に対する丁寧でわかりやすい説明が重要になるという自覚を持ってほしい。

担当者に補助金額を算出させて、その額に基づいた配分方法を決定したうえで、今回の補助金の仕組み・月額9千円の給与アップがあるという数字のカラクリ・当該事業所の配分方針・補助金のすべてを職員の配分に回しているという事実等を丁寧に説明しないとならない。

それを怠る事業者においては、人間関係を中心にした職場環境の著しい悪化、あるいは崩壊が起こる可能性が高い。

介護事業経営者は、今回の補助金の申請と配分問題を、今後の事業経営を左右するほどの大きな問題と考えて、今から準備を進めて、これでもかというほど丁寧な対応が必要になると考えるべきである。

そしてこの問題では、経営者としてのスキルを問われる重要な判断を行わねばならないことを十分自覚すべきである。
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