法は従うべきルールであり、それが気に入らないからといって無視して護らないということは許されない。

しかし同時に法は盲従すべきものでもないことに気づかねばならない。

法とは所詮誰かの作文に過ぎず、様々な経緯とその時々の事情を斟酌したうえで作られているもので、すべての人を正しく豊かな方向に導くものではないからだ。

悪法とは言わないまでも、何らかの瑕疵が含まれる法律は数々存在しており、それを正す必要もある。時代にそぐわなくなって改革を求められる法も存在する。

例えば権利擁護に関連して、ごく近い歴史を振り返ってほしい。

2011年にダウン症の女性(当時48歳)が原告となった訴訟は、公職選挙法の規定に異を唱えたものだった。

本件は、女性の父親が将来の財産の管理に不安をもち、娘の成年後見を申し立て後見開始になったところ、女性に選挙の投票用紙が送られてこなくなったことに端を発している。その理由は、公職選挙法第11条第1項に「成年被後見人」は、選挙権及び被選挙権を有しないとされていたためである。

原告は成人以来27年、選挙公報を見ながら自らの投票行動を決定し、欠かさず両親と共に選挙に行っており、「選挙に行けなくなってつまらない。もう一度選挙に行きたい」と訴え裁判を起こしたものだ。

そもそも現実の成年後見制度の審理においては、家庭裁判所はあくまで財産管理能力を審査しているのであって、選挙権を行使するために必要な判断能力の有無など全く審査していない。そうであるにもかかわらず、権利を擁護しようとすると選挙権を奪われるということはあまりに理不尽であり、投票能力を有する原告の訴えは正論中の正論であった。

この裁判の判決は2013年3月14日に出されている。

東京地裁は成年後見制度を借用して、一律に選挙権を制限することになる公職選挙法11条1項1号は違憲であると判断し、被後見人の国政の選挙権を行使する地位を確認した。

裁判長は最後に原告に対して「どうぞ選挙権を行使して社会に参加してください。堂々と胸を張っていい人生を生きてください。」と語りかけ、傍聴席から万雷の拍手が起こったことは、今でも強く記憶に残る感動的場面であった。

この判決言い渡しは、瑕疵のある法律を正すだけではなく、投票行動を一時的に奪われ傷ついた原告の心情を慮ったものといえ、平成という時代を代表する名判決の一つといってよいだろう。

これによって国は控訴せず、公職選挙法11条1項1号の削除の法改正を行っている。

権利擁護の具体的な制度として成年後見制度があるが、それは人権の保障であって単なるサービスではないし、成年後見は本人の権利を護るためのもので、決してその権利を制限するものではないという真理が、この判決に影響していることも関係者は理解してほしい。

成年後見人の中には、財産管理と称して、被後見人のお金を使う権利をも奪うような扱いをしている人がいるが、それは間違っていることにも気が付いてほしい。

どちらにしても例示した裁判では、原告が裁判という公の場で権利擁護の制度によって選挙権を奪われることの理不尽さを真摯に訴えたという結果なのである。

このように法を良い方向に変えるためのソーシャルアクションは必要なのである。しかし間違っていると思う規則に従わないという我儘は許されないということも同時に理解せねばならない。

現行法に納得いかないからとして、法律を遵守せずに違法行為を繰り返して居れば、そのような行動をとる人間に対して信頼を寄せる人はいなくなり、改革のアクションも効果は薄いものとなる。

例えば、高速道路の料金徴収に納得できないからとして、料金所を無法突破する人に支持が集まらないのと同じことである。

よって自らの価値観に沿わない法に従わずに、勝手な行動をとる人のソーシャルアクションは、多くの人からの支持は受けれなくなり、実現は困難となるということを念頭に置いたうえで、ソーシャルアクションに努める必要があるのだ。

我々は対人援助の専門家として、日々福祉・介護サービスの利用者の方々と向かい合っている。そこでは利用者の方の暮らしぶりが良くならない根本原因が、法や規則の瑕疵に起因しているのではないかということも常に考えたうえで、その改革のアクションにも努めなければならないのである。
対人援助の専門家として持つべき矜持
その部分にはテロリズムは必要ないし、暴力や暴言は最も忌むべきものである。

対人援助の専門家とは、正義と正論でもって世の中を動かす人でなければならない。そこには裏も表もない。ただただ人の暮らしを護ろうとする、日々の真摯な実践が求められるのみである。
登録から仕事の紹介、入職後のアフターフォローまで無料でサポート・厚労省許可の安心転職支援はこちらから。






※別ブログ「masaの血と骨と肉」と「masaの徒然草」もあります。お暇なときに覗きに来て下さい。

北海道介護福祉道場あかい花から介護・福祉情報掲示板(表板)に入ってください。

・「介護の誇り」は、こちらから送料無料で購入できます。

masaの看取り介護指南本看取りを支える介護実践〜命と向き合う現場から」(2019年1/20刊行)はこちらから送料無料で購入できます。
きみの介護に根拠はあるか
新刊「きみの介護に根拠はあるか〜本物の科学的介護とは(2021年10月10日発売)Amazonから取り寄せる方は、こちらをクリックしてください。