今週月曜日にマイナビが運営する、「メディカルサポネット」の「菊地雅洋の激アツ介護経営塾〜選ばれる介護事業者であり続けよ」の連載記事で、介護職員等の給与改善交付金について論評した。
そこでは、「介護職員がいない事業所(居宅介護支援や福祉用具貸与など)は対象外とする方針が示されていることに不満の声も挙がっていますが、この問題の決着も先送りされています。」と書いた。
しかし8日に行われた介護給付費分科会資料では、介護職員の月額平均9.000円の賃上げ交付金については、既存の「処遇改善加算(I)から(III)」のいずれかを取得していることを要件とし、介護職員の配置義務のない訪問看護・訪問リハビリテーション・福祉用具貸与・特定福祉用具販売・居宅療養管理指導・居宅介護支援は対象外と明記されている。(※介護予防も含めて対象外)
これによって日本介護支援専門員協会等の要望はまったく無視される形で、居宅ケアマネの交付金支給による給与改善は実現不可能となった。
ただし資料では対象となる職種を、「介護職員」としているものの、但し書きとして、「※事業所の判断により、他の職員の処遇改善にこの処遇改善の収入を充てることができるよう柔軟な運用を認める。」としているため、交付金が支給される介護施設等については他職種への配分は可能となった。
このため施設併設の居宅介護支援事業所の場合は、施設のケアマネには配分があって給与が上がるのに、居宅ケアマネは配分がなく給与も据え置きということになり、特定加算の時と同様の不公平が生ずることになる。僕個人としては非常に残念な決定だと思う。
国の論理は、今回の交付金は人材不足に対応するという意味もあり、足りていないのは介護職員なのだし、居宅ケアマネについては介護報酬を給与引き上げができる方向で改定したのだから、それでカバーしてほしいということである。
報酬改定で引き上げられた分と言っても、それは主に担当者を従前より多く抱えて逓減性緩和を適用されたことによる分だから、仕事量が大幅に増えた上での給与増である。それは労働対価として当然のことなのだから、それを理由に今回の交付金から除外されるのは納得いかないと思う人も多いだろう。その考えは正論であると思う。
また今回の交付金から居宅ケアマネが外されたことは、逆に24年の報酬改定には順風で、そこで居宅介護支援費の更なる引き上げが期待できるとする向きもあるが、そんなに先の不確定要素に期待しても始まらないと思う。そうした見方はまったく意味がないと指摘しておく。
交付金の配分ルールは今後示されることになるが、10日の参議院本会議で岸田首相は、事業者が交付金原資を全て賃上げに充てたかどうかを、自治体において確認する仕組みとすることを表明している。
これは自治体の仕事が増えることを意味すると同時に、自治体に実績報告する事務担当者の業務増をも意味している。そういう人たちにも報いる形で、配分をしていただきたいと思う。
介護給付費分科会では交付金の財源について、保険料・利用者負担の増加を牽制する声が相次いで上がったが、このことについては、メディカルサポネットの連載記事で評論しているので、そちらを参照してほしい。
さてそのほか今週介護業界を賑わせたニュースと言えば、「3月しか勤務していない老健で何があったのか?〜空気注入殺人事件」で評論した事件である。
その記事に追記しているが、事件があった老健施設では他に複数の入所者の不審死が確認されているそうだ。それも当該職員が手に掛けたとすれば、今後過去に例のない利用者連続殺人事件に発展するかもしれない。続報に注目する必要がある。
他にも介護事業者の世間の信頼を揺るがすニュースが続いた。
東京都立川市の有料老人ホームで介護職員として働いていた松本昌伸容疑者(42)=東京都東久留米市弥生1丁目=が窃盗容疑で逮捕され、容疑を認めているという。

事件は、松本容疑者が8月2日〜9月8日の間、自ら勤務する有料老人ホームの入居男性のキャッシュカードを使い、計23回にわたって現金計850万2千円を引き出したというものだ。
事件が発覚したきっかけは、9月に被害男性が亡くなったことだ。被害者は生前、預金残高は何百万円もあると言っていたにもかかわらず、死亡月の利用料が残高不足になり11月に自動引き落としされなかったため、それを不審に思った別の職員からの通報ということになっている。
しかし死亡者の口座を放置して、2月も後にそこから引き落とされた利用料が支払われるのを待っているということにも問題があるのではないだろうか。
容疑者がキャッシュカードと暗証番号をどう手に入れたのかを明らかにすることも必要であるし、この施設全体の利用者金銭の管理がずさんだったのではないかという検証が必要だと思う。
どちらにしても利用者の暮らしを護り、生活の質を向上させるべき場所で、命や財産が奪われることは大問題だ。そんなことがあっては利用者は安心してサービス利用ができなくなってしまう。
そんな業界に国民の血税を使って、給与改善のための交付金を支給してよいのかという議論にもつながりかねない。
そうならないように、介護事業経営者はより一層の、ガバナンスとコンプライアンスの確立に努めなければならない。
できることは自らの組織を律することであり、そのためには自らが介護事業経営者として職員に範を示すことができるように、己を律することである。
日大前理事長のように、汚れた裸の王様にならないように気を付けたいものだ。
今週はmasaの徒然草も久しぶりに更新した。職場改革につながる示唆も含んでいるので、「街を飾るイルミネーションのように輝くために」も参照いただきたい。
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