全国老人福祉施設協議会(老施協)・全国老人保健施設協会(全老健)・日本介護医療院協会の施設3団体の会員施設調査によると、今年度から新設された科学的介護推進体制加算の算定率は、特養50%・老健70%弱・介護医療院37%、また自立支援促進加算特養12%・老健30%割弱・介護医療院17%であるという結果が公表された。

科学的介護推進体制加算は、ADLや口腔・栄養状態、認知症のBPSD情報等を情報提出し、LIFEからのフィードバックを各事業者でPDCA活用することで算定できる加算であるが、今現在フィードバックは暫定的に行われているだけで、それは提出された情報の全国平均値の月別データでしかなく、実質フィードバック活用を行わずとも、情報を提出するだけで算定可能である。(参照:認知症の人の対応方法を科学する難しさ

よってこの算定率が5割にとどまっている特養は、経営上の危機意識が乏しいと思う。情報をLIFEに送るだけの作業がどうしてできないのか理解に苦しむ。LIFEに登録している特養の割合は、7月時点で81.2%に上っているのだから、老健と同割合の算定率があっておかしくないのだ。

特養の施設長は、一日も早くこの事務作業を促して、同加算を算定しなければならない。そうしないと経営は困難となると理解してほしい。

一方で自立支援促進加算については、1割を超える程度の低い算定率であると言っても、これは僕の予測を超えた算定率だ。なぜならこの加算の算定要件は、非常に高いハードルとなっているからだ。

特養にとって高いハードルとなっているのは、入所者ごとに医師による医学的評価を6月ごとに行わねばならないことだ。老健と異なって、常勤医師の配置が必要なく、週1〜2回程度の定期回診のみで対応している特養では、医師の相当な理解と協力がない限りこの要件がクリアできない。よって老健より算定率が下がるのはやむを得ないだろう。

しかもこの加算には、「暮らしの質を高める」ための高いハードルが複数存在する。現在この加算を算定している施設は、この要件を本当にクリアしているのか今一度確認願いたい。要件をクリアしていないとして加算返還指導が数多く行われるのではないかと懸念するほど、そのハードルは高いと思うからである。

介護報酬改定Q&A Vol10で示されている算定要件を改めて確認してみたい。

例えば食事は、「本人の希望に応じ居室外で、車椅子ではなく普通の椅子を用いる等、施設においても、本人の希望を尊重し、自宅等におけるこれまでの暮らしを維持できるようにする。食事の時間や嗜好等への対応について、画一的ではなく個人の習慣や希望を尊重する。」となっている。

家具椅子への移乗促進だけではなく、個人個人の食事時間の希望を確認することなく、全員一律の食事時間を設定してる状態であれば算定不可とされているのだ。この要件をクリアできているという理論武装は出来ているのか・・・。

「経管栄養といった医学的な理由等により、ベッド離床を行うべきではない場合を除き、ベッド上で食事をとる入所者がいないようすること」もできていなければならない。『寝たきりだからベッドで食事をしています。』は通用しない理屈なのである。

さらに高いハードルが入浴支援に設定されている。「入浴は、特別浴槽ではなく、一般浴槽での入浴とし(※感染症対応等やむを得ない場合は例外)、回数やケアの方法についても、個人の習慣や希望を尊重すること。」とされている。

最低基準である週2回の入浴支援を繰り返して、利用者の希望を取り入れていなければ算定基準違反となるし、特浴では不可なのである。ここもクリアできているのだろうか。重複を恐れずに書くが、利用者全員を週2回しか入浴支援していないと、この加算は算定できないことを本当に理解しているだろうか?

入浴支援については、『分業による機械的ケア』も禁じられている。「流れ作業のような集団ケアとしないため、例えば、マンツーマン入浴ケアのように、同一の職員が居室から浴室までの利用者の移動や、脱衣、洗身、着衣等の一連の行為に携わること」という要件がクリアできていないと加算返還である。

着たきり雀を創っている施設も加算不可だ。「起床後着替えを行い、利用者や職員、家族や来訪者とコミュニケーションをとること」とされているからだ。

最大のハードルは、夜間であっても、おむつ交換は定時交換のみでは算定できないというハードルだ。「おむつ交換にあたって、排せつリズムや、本人の QOL、本人が希望する時間等に沿って実施するものであり、こうした入所者の希望等を踏まえず、夜間、定時に一斉に巡回してすべての入所者のおむつ交換を一律に実施するような対応が行われていないことを想定している」

見守り機器などの利用を条件に、一人の夜勤者で60人もの利用者対応する時間を増やす「夜勤配置基準緩和」を適用している施設で、夜間のおむつ交換を一人ひとり個別の時間で行うことなど不可能だと思うが、全員一律のおむつ定時交換では算定不可というルールなのである。

上記の算定要件がすべて利用者にとって求められる要件なのかと問われれば、首を傾げなければならないものもある。

例えば機械浴の方が、身体に負担がかからずに、望まれる入浴方法である人もいると思うが、感染症対策を除いてそれを否定している意味は、在宅復帰を鑑みると、機械浴を設置している家庭などないという意味だろうと思える。ちなみにこの規定は、日本医師会が強力にプッシュしてねじ込んだ規定であるそうだ。(何故かはわからない。)

夜間のおむつ交換にしても、紙おむつの素材が非常によくなっている今の状況では、安眠を妨害せずにきちんと定時交換できていれば、それで十分ではないかと思ったりもするが、それは駄目という要件なのである。

果たして自立支援促進加算を算定している12%の特養・30%割弱の老健・17%の介護医療院が、これらの要件を、本当にすべてクリアできているのだろうか。

僕の印象では、この算定要件のハードルは極めて高く思えるので、実際には要件クリアできておらずに、加算算定して、後に返還請求を受ける施設が多くなるのではないかと思ってしまう。

それほど3団体の調査結果の自立支援促進加算の算定率は、僕の予測よりはるかに高い結果であった。
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