社会全体で格差が広がっていると言われることが多い。

それがあたかも、長期政権となった前安倍政権の「負の遺産」のように語られることがある。特に社会保障政策について、前政権は十分な対策をしてこなかったような論評に出くわすことがあるが、そうした論調には違和感を抱かざるを得ない。

前政権は消費税を10%に引き上げることが出来たこともあって、高齢化の進行に対応する形で政府の規模を大きくして、社会保障の充実に取り組んだのである。

その他、高齢者に偏っていた社会保障を「全世代型」に切り替え、欧米のような格差拡大を何とか防いできたのである。その実績は決して否定できない。

安倍首相が抱いていた本来の理想は、「小さな政府」の実現により、財政の健全化を図るというものであったろうと思うが、前述したように前政権下では不本意ながら、「大きな政府」となることによって社会保障政策を推進したのである。

特に政権の終盤時期に起きた予想外のコロナ禍で経済が停滞する中、大きな財政出動をせざるを得なかったが、それによって介護業界も恩恵を受けて、「コロナ倒産」がほとんど起きなかったという評価はあってしかるべきである。

それでも格差が広がっていると感じるのは、経済成長の歪みが起因していると思える。アベノミクスの恩恵が大きかった場所と、そんな恩恵がちっとも与えられなかった場所との差が、大きな格差につながっているのではないのか。

さすれば格差は社会保障政策によって生ずるのではなく、経済政策が大きく影響すると言えるのではないか。

そもそも社会保障政策とは、市場経済で生じた歪みを是正する目的で対策されるセーフティネットなのだから、社会保障政策で社会の格差をすべて消滅させるということは不可能である。

少なくともそれは資本主義社会の論理にはなり得ない。

ところで岸田内閣は、前政権の経済政策を引き継いでいないことは、今更言うまでもないことだろう。

新政権は新自由主義的な経済政策から転換し、成長と分配をすすめ中間層を拡大していく、「新しい資本主義」を掲げているのである。

その政策における格差解消策とは、社会の「」の再分配政策と、分配された財によって消費拡大と経済活性化という循環を創り出すというものだ。

その一環として介護職員等の給与改善交付金が補正予算に組み込まれるのである。

だから今回話題になっている介護職員等の給与改善策も経済対策であるという理解が必要だ。

この対策によってもなお、全産業平均給与と介護職の平均給与との差は埋まらず、介護人材対策になっていないと批判する人がいるが、それは的外れな批判だ。

この政策は経済政策であって、この政策によって他産業との平均給与格差を完全になくそうとしているわけでも、介護人材対策を完結させようとしているわけでもないのである。

だからこそ我々介護関係者は、今回の補正予算措置で、介護職員の給与改善は完結するわけではなく、道半ばであるという理解を促す努力をしつつ、今回の給与改善策とは別に、一日も早く介護職員の平均給与を全産業平均並みに引き上げるように訴えていくべきである。

そこでは介護は社会の重要なセーフティネットであり、経済市場を支える要素でもあることを強調する必要がある。そこにお金をかけるということは、決して無駄な支出ではないという情報発信が求められるのだ。

そしてその財源は、財の財分配機能が発揮できる形で、社会的弱者や中間層が負担することがないように、富裕層が負担する形にすべきことも提言していかねばならない。

そういう意味では全額国庫負担が正しい方法であるし、それが来年10月以降に介護報酬財源からの支出になることは問題であると反対の声を挙げるべきなのである。

なぜなら介護報酬財源に移行された途端、そこでは被保険者負担が伴うことになる。

すると財源確保のために自己負担割合が2割や3割の層を拡大するという、決して富裕層とは言えない被保険者のさらなる負担増が行われたり、介護給付から地域支援事業化するサービスを拡大するなどの、介護支援を必要とする社会的弱者の給付制限につながりかねないからだ。

そうした情報発信や提言を行わないで、批判と文句ばかり垂れ流してもしょうがないし、そんなことでは何も変わらないのである。
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