政府は昨日(11/19)、新たな経済対策を閣議決定したが、その対策をまとめた文書には、「介護・障害福祉職員を対象に、賃上げ効果が継続される取り組みを行うことを前提として、収入を3%程度(月額9000円)引き上げるための措置を、来年2月から前倒しで実施する」と明記されている。

給与改善の対象職種や金額については、多業種に比べ処遇改善が遅れている保育士と介護職(以下、介護職等と表記)の全員の賃金を月額3%程度に当たる約9千円引き上げを先行実施すると報道され、それに加えて救急医療を担う病院などに勤務する看護師のみを対象として、当面は月額4千円の改善を行い、幼稚園教諭の賃上げも実施するとしていた。

これに対して医療・介護関連団体からは、それらの職種に限って配分することに反対する要望書等が国に提出されていた。主たる要望内容と要望団体は以下の通りである。

・「介護現場では多職種によるチームケアが中心となるため、職種に限定された処遇改善は公平性の観点から現場に大きな不協和音を招いている。限定的なルールではなく、事業者の分配裁量権の拡大を求める」(日本デイサービス協会

・「介護支援専門員の業務が拡大しているなかで、人材の確保は深刻な状況。その一因として業務量と賃金の不均衡が言われてきている。業務に見合う処遇の問題が放置されれば、介護支援専門員、主任介護支援専門員の人材確保、さらに優秀な人材の確保は困難になるのではと危機感を抱いている」(日本介護支援専門員協会

・「病院で働いている看護補助者・介護職に対する処遇改善の仕組みがない。病院が地域医療を提供していくうえで、看護補助者・介護職は必要不可欠な職種。現状では多くの病院が看護補助者・介護職の確保に苦慮している。介護施設の介護職と同様の交付金、もしくは診療報酬により処遇を改善する対応が欠かせない」(四病院団体協議会

・「対象職員を限定せず、現に雇用されている職員全員を対象とするとともに、介護保険以外の財源による養護・軽費ケアハウスなどの施設の職員の給与への配慮も必要」(全国老施協

これらの声を受ける形で、新たな経済対策としてまとめられた文書には、「他の職員の処遇改善に充てることができるよう柔軟な運用を認める」とも書き込まれた。

そのため配分方法の詳細については今後さらに調整を重ねることになり、現時点ではどの職種に、どの程度の給与引き上げが実現するのかは不透明だ。

特定加算のように一定のルール化で介護事業者の裁量を広く認めたうえで、介護職員以外にも配分されることになれば、給与改善がされない職種の不公平感はいくらかでもぬぐうことができる。しかし当初言われていた介護職全員を対象とした月9.000円の給与改善は難しくなるだろうから、そのことに不満を抱く介護職員も出てくるだろう。

どちらにしても支給方法が明確になった後の、各事業者における職員への丁寧な説明と、職場内コンセンサスの形成という大きな課題が、介護事業経営者や管理職に背負わされることになる。この部分は丁寧に行いたいものだ。

それは職場の人間関係や、チーム連携にも影響を与えかねない問題だからである。

しかし、この給与改善によってもなお、介護職等の給与については全産業平均の月額給与の水準には追い付かない。
職種別の平均賃金
確かに介護職員処遇改善加算・特定処遇改善加算などを重ねて介護職員の給与改善は少しずつ上がっているのは事実だが、その状態は戦力の逐次投入のようであり、介護人材確保などにつながる効果にはつながっていない。

だからと言って、報酬改定とは直接関連しない時期に、診療報酬や介護報酬財源とは別に財政措置を行って、介護事業者等の職員給与が少しでも改善されることは歓迎されてしかるべきである。

今後は、今回の給与改善が行われてもなおかつ、介護職全体の月額給与が、全産業平均より5万円以上低いということを問題視して、その差を一気に埋めるような思い切った給与改善を求めるアクションが必要だろう。

しかし今後予測される緊縮財政の中で、介護職等の給与改善が、基本サービス費の引き下げという人質を取られて行われることになっては、介護事業経営自体が成り立たなくなる恐れがある。

介護事業の安定経営と介護人材確保は、「介護難民を生み出さない」という国民全体の利益につながる問題なのだから、介護人材の処遇改善費用は、全額国庫負担による交付金方式で行うようにするなど対策が必要ではないだろうか。

保険・医療・福祉・介護は社会のお荷物ではなく、重要なセーフティネットなのである。それにお金をかけるということは決して無駄な支出ではなく、経済市場を支える支出なのである。

岸田首相の看板政策は、成長と分配をすすめ、中間層を拡大していくというものなのだから、税負担のあり方も見直すなどして、富裕層の負担で経済的弱者の所得を増やしていくという考え方があっても良いのではないかと思うのである。
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