介護事業者にとって人材育成は最も重要な課題であり、そのための教育訓練は大切な経営基盤であるとさえ言ってよい。

だがこの国における社会全体の働き手の減少は、介護事業者における深刻な人材不足をもたらし、多くの介護事業者が、「介護実務を担う働き手」が足りないとして、人材教育に時間を掛けることができずにいる。

法人内に教育部門を持ちながら、その担当者が現場から、「人手が足りないのだから、募集に応募があり、採用した職員は一日も早く実務に就かせてほしい。」と突き上げられる悩みを聴くことも多い。
介護人材不足
その結果、促成栽培のように時間と手間をかけない作業指導を終えた人間を介護実務の場に放り出して、後は先輩職員の仕事を見よう見まねで仕事を覚えて実務をこなせるようにするというのが、介護事業者のケアの品質を低下させる一因にもなっている。

必要とされる教育が十分行われずに、仕事の手順を一日も早く覚えさせる作業指導に終わっているのだから、それも当然である。

本来、職場内の教育とは、正しい知識を与えたうえで、OJT訓練によって頭の中の知識を実際に試してみて、正しい方法やコツを掴み取らせるものである。基盤となるのは座学で得た知識なのだ。

それが不十分な中で、OJTと称して先輩職員のお尻のあとを金魚の糞のようについて回ったって、正しい技術もコツも掴めるわけがない。しかも指導する先輩職員にも教えるスキルがないどころか、正しい介護技術も身に着けていない場合があるのだから、根拠ある指導も計画的教育もできない。それはOJTとは言えない。

ここを根本的に変える必要があるが、さらにもう一つ重要な問題がある。それは人物の見極めができていないという問題である。

本来OJTでは知識を実務に生かす過程で、人物の適性評価を行うことも必要になる。教えを受けている人間の長所や短所を見極めて、短所をカバーする方法を教えるだけではなく、場合によっては利用者と向かい合う職業に向かない職員を見極めて、排除するということも必要になるのだ。

促成栽培の過程では、そのようなことは言っていられなくなり、一定の基礎作業ができるようになれば、すぐに独り立ちさせて、自分で成長しなさいと現場に放り出される。

育つも八卦・育たぬも八卦という世界が介護の一面として、そこかしこに広がっている。

そうして適正評価が行われることなく、人物の見極めも不十分な状態で現場に放り出された人間の中には、対人援助の適性のない人間も多数含まれることになる。

そうした人間が、密室化されやすい利用者のプライベート空間で勝手気ままにふるまって、利用者の尊厳を奪い、身体さえも傷つける行為を行ってしまうのである。

そのような行為の結果が下記で報道されている事件につながるのだ。
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朝日新聞11/12・14:18ネット配信記事より
愛知県東浦町の知的障害者施設「なないろの家」で入所者が相次いでけがをした事件で、県警は12日、入所者2人に対する傷害罪で実刑判決を受けた元非常勤職員の水野有幸容疑者(46)を、別の入所者に対する傷害致死の疑いで逮捕した。

 逮捕容疑は、2019年3月6日夕から7日朝、入所者の男性(当時49)の腹を蹴り、腸に穴が開くけがを負わせ、同月8日に搬送先の病院で死亡させたというもの。死因はこのけがによる「急性汎発(はんぱつ)性腹膜炎」だったという。

 この施設では、他に50代男性2人と80代男性の計3人が腹にけがをし、うち50代の1人が約3カ月後に死亡した。水野容疑者は80代男性と死亡した男性に対する傷害罪で起訴され、名古屋地裁は9月30日、懲役2年4カ月の実刑判決を言い渡し、確定。水野容疑者は3月、起訴分に含まれなかった、もう1人の50代男性への傷害容疑で逮捕され、名古屋地検が捜査している。

 地裁判決などによると、水野容疑者は空手の有段者で、知的障害のある入所者の生活支援をしていた。

 愛知県は10月、施設の運営法人に対して新規利用者の受け入れを3カ月間停止する行政処分を出した。法人側は第三者検証委員会を設置して、運営体制や、事故や苦情への対応のあり方について検証している。
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果たしてこのような人物が、「教育」によって虐待とは無縁な人になって、利用者に対して不適切対応をしない人間になることができるだろうか。

子供に対する教育課程であれば、人間性が大きく変わるような成長も期待できるかもしれない。しかし49歳にもなって、無抵抗でなんの悪意もない障害者を蹴り殺すような人間の、その根底となる性質を変えるなんて不可能だ。

さすればこうした職員はOJTの最中に、「この人物は、人の尊厳を傷つけても何とも思わない資質を持つ人で、対人援助に向かないのではないか」ということを察知して排除するしかないのである。

介護事業経営者は、採用した職員が全員、その事業者内で戦力になるという幻想を抱かずに、育成と見極めの教育課程をしっかり構築して、機能させていくという強い意志が必要だ。

それがない事業経営者が、テレビカメラの前で頭を下げて、なおかつ刑事責任さえ問われ、経営危機に見舞われている現実に気づくべきである。

コロナ禍で、他産業からの転職組が多くなっている今だからこそ、今一度そのことを肝に銘じなければならない。自分自身の首を絞めないためにも・・・。
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