岸田首相が、就任直後から明言している介護職員の賃上げの内容と財源・方法等が11日に示された。

これは政府が19日に決定する経済対策に盛り込まれるもので、多業種に比べ処遇改善が遅れている保育士と介護職(以下、介護職等と表記)の全員の賃金を月額3%程度に当たる約9千円引き上げるというものである。

そのほか地域の救急医療を担う看護師の収入を3%程度増やし、幼稚園教諭の賃上げも実施する。

介護職等の賃上げについては、岸田首相の『社会の財の再分配』政策に沿ったもので、経済対策として30兆円の財政支出を行う中で取り組むものであり、2021年度の補正予算として裏付けを急ぐとしている。

補正予算では介護職等の賃上げ原資を交付金とするとしており、来年2月〜9月分を確保する予定である。ただし申請手続き等が必要なために、介護職等の手元に引き上げ分が届けられるのは来春(2022年4月)以降となる見込みである。

来年10月以降は、診療報酬や介護報酬で対応するとしており、処遇改善交付金(2022年2月〜9月)〜処遇改善加算の上乗せ(2022年10月以降)という形で、引き上げ分が各事業者に支払われることとなりそうである。

一連の報道記事を読むと、当初給与改善は看護職・介護職・保育士とされていたが、月額一律9000円の賃金の引き上げが行われるのは介護職と保育士だけのように読める。看護職は救急医療担当の看護師のみと読み取れるが、間違いないだろうか・・・。

今回の引き上げは、ボーナス等を含めた職種別の月額平均給与が、全産業平均で35万2千円なのに対し、保育士が30万3千円、介護職が29万3千円と低かったことによる対策とされており、一方で看護師は39万4千円と全産業平均より高いことで、救急医療以外の看護師が除かれたということなのかもしれない。

看護師の給与が医師の4割程度にとどまっているという点は、この改善の理由にはならないということのようだ。

残念ながら介護事業者に所属する他の職種については、この引き上げ対象にはなっていない。職場内の人間関係とか、チームワークを考えたとき、それは大きな問題だと感じている人も多いだろうが、政府の方針なのでどうしようもないところだ。

新しい交付金によって、介護職の給与改善原資は、処遇改善加算+特定加算+交付金という3重構造となり、それぞれに手続きを要することになる。さらに来年10月以降は、現行の処遇改善加算に9千円分が上乗せされる形になるのだろう。その手続きも必要になる。
給与格差
そのため今回の対策によって一番大変なのは担当事務員であると言える。申請業務だけでも大変な業務負担増にならざるを得ない。しかしそれは他人の懐を豊かにするだけの業務負担であり、そのことが自分の懐にまったく跳ね返ってこないことに納得いかない人も出てくるだろう。不満や不定の声が聴こえてきて当然のことと思う。

介護事業経営者の方々には、今回の給与改善の対象にならない職員に対し、事業収益の中からできるだけ給与に反映できる分を回していくという考え方も必要になるだろう。だからこそしっかりとした経営意識をもって、収益確保の対策を講じなければならない。

今後、こうした財源支出に対する抵抗勢力の逆襲も予測される。財務省は特定加算を介護職以外の職員に支給していることにお冠のようだから、2024年の介護報酬改定に向けてその運用の変更を求めてくるかもしれない。

変な抵抗意見も既にある。

例えば9日に開かれた、「公的価格評価検討委員会」では、内閣府の担当者が会合後、「今までの処遇改善の取り組みがしっかりと賃上げにつながっているかどうかみる」と説明している。

同じような考え方として、8日の「財政制度等審議会」でも財務省が、「処遇改善加算は事業者の収入にはなっても、必ずしも介護職の賃上げにつながらなかったとの指摘もある」と説明する場面があった。

しかし処遇改善加算は、算定費用の全額を介護職員に手渡していなければ不正請求であり、1円でも事業者の収益に計上しておれば加算費用を全額返還しなければならないものだ。

よって内閣府や財務省の担当者の説明は、算定要件を理解していない、空想としか言えない。介護職員に支給せず事業者収入になんてできない仕組みになっているという当たり前のことを、きちんと理解したうえで議論の場に臨んでいただきたい。

介護職員の給与が上がることは良いことだ。それによって他産業から介護業界に転職する人が増え、介護人材不足を少しだけ改善に向かわせることができれば、それは国民全体の利益だ。

しかし介護事業は、決して介護職員だけが支えているのではないことも理解してほしい。

介護職だけが給与改善しても、介護事業経営の基盤を支える事務職員や、介護職以外の専門職である相談援助職や栄養士等が、給与改善の蚊帳の外に置かれることは、決して良い結果を生まないと思うのである。

介護事業の全職員の処遇改善こそが、日本の介護を支える礎(いしづえ)になると思うのは、僕だけであろうか・・・。
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