このブログで何度か指摘しているように、国が科学的介護情報システム(通称:LIFE)に情報を集積して、それを解析することで実現しようとしている、「科学的介護」とは、科学的根拠に基づいた介護という意味である。

もっと具体的に言えば、決められた介護という行為を機械的にこなして終わるのではなく、その介護が何を目的として行われるのかを意識しながら、「こうすればこうなる」というふうに、原因と結果に因果関係を求め、それに即した介護実践を行うということだ。

そのために今はLIFEに情報を集積している段階である。

国はこの情報を解析したうえで、近い将来介護の科学的根拠を導き出して、介護事業者に対して具体的なフィードバックを行うことで、介護の標準化を図ろうとしている。

フィードバックの具体的内容については、『個別化された自立支援・科学的介護の推進例(イメージ)』で例示されている。

例1の利用者フィードバックは、「リハビリテーションの提供に合わせて、間食など食事提供量の増量を推奨。」とされており、例2の事業者フィードバックは、「入所者は元気な方が多い傾向であり、食事の状態を踏まえると、排泄の状態も、更に改善が期待できることを示唆。」という内容になっている。

つまりここでは、「栄養状態と身体機能の維持・向上の因果関係(利用者フィードバック)」と、「ADL値と排せつ状況の因果関係(事業者フィードバック)」を新たなケアの方法に結び付けるように促しているわけである。

しかし実際のフィードバックは、6月・8月・10月と3回行われたが行われたが、内容は情報を提供した事業所の状況と、各項目の全国割合と該当者数を確認することのできる「暫定版」にとどまっている。
LIFEからの暫定フィードバック
図のように事業所単位のフィードバックでは、施設の状況と全国平均が数値とグラフで、ADL、栄養、認知症など各項目にまとめられているだけである。

これをどうPDCAサイクルに活用するかが問題となるわけであるが、現時点では全国平均値と比べて、数値が低くなっている部分の現状理解と原因を検討して、できるだけ平均値以上の状態にする検討を行うしかないだろう。それでLIFE要件の加算要件は満たすと考えられる。

例えば、認知症高齢者の日常生活自立度が全国平均値より高いのに、バーセルインデクス評価の意思疎通部分が比較的出来ているということは、認知症の人に対するケアが優れていると評価できるかもしれない。

しかしそれがどうしたと言うのだろうか。そんなことがわかってもどうにもならない。認知症の人との意思疎通が良好である背景要因、そうした結果に結び付く実践根拠が見て取れないとどうしようもないのだ。

どちらにしても、『個別化された自立支援・科学的介護の推進例(イメージ)』で例示されたようなフィードバックがされるのはまだ先のことになる。

しかし厚生労働省の平子哲夫老人保健課長(当時)は「『事業所単位』・『利用者単位』で具体的な比較図などをまとめた資料が公表されるまで、少しお時間を頂きたい」と説明していることを考えると、実際のフィードバックは、「全国平均との比較図」に留まるのではないかという疑問も出てくる。

それで本当に科学的介護なんて実現するのだろうか。

介護というのは感情労働だから、同じ人に同じ状況で、同じ方法を行っても結果は同じくならない。この部分のコツを、言葉及び文章で万人に伝えることができるのかどうかが、エビデンスの構築の過程で一番の問題になる。

認知症の人なら特に、「こうすればこうなる」という方法を見出すのは難しい。昨日はこうしたらこうなったのに、今日は同じことをしても違う結果になったということがしばしばみられる。

その時に私たちが拠り所にするのは、その人の機嫌であったり、表情であったりするわけである。

認知症の人の対応は、生活歴や職歴も深く関連してきて、同じ方法が通用しないことが多い。ここの因果関係は数値やグラフでは表現しきれないだろう。少なくともそこに、「説明文章」は必須だと思うが、それが科学的根拠といえる内容まで昇華できるだろうか・・・。

どちらにしても私たちは、国が膨大な数値データを解析して科学的介護を導き出してくれるなんて言う幻想は抱かず、かつ国の都合の良い方向に介護事業者が動くことが「科学」であるなんて言わせないようにする必要がある。

だからこそ私たちの作成するケアプランこそ、きちんとした根拠ある実践方法を落とし込む必要があるし、そうしたプランを形骸化させずに、その内容に即した介護実践が求められていくことを忘れてはならないのである。

だから今後の介護実践における合言葉とは、「きみの介護に根拠はあるか」ということになってくるのである。
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