まずはじめにメディカルサポネットに僕の新著本が紹介されているので、この場を借りてお礼を申し述べたい。推薦ありがとうございます。(※張り付いた文字リンクを参照してください)
それはさておき本題に移ろう。
科学的介護情報システム(LIFE)の本格的運用は、今年4月から始まったばかりといってよい。
しかも前年度まで運用されていたCHASEからLIFEへの切り替えに際して、アクセスが集中してサーバーが落ちてしまうなどのトラブルが相次ぎ、老健局のクラスター感染と相まって、その運用は大幅に遅れた。
そんなことも相まって、LIFEからの介護事業者に対するフィードバックは予定通りに行われていない。
そもそもLIFEに全国の介護事業者の情報が集積されていくのは今年度からであり、3月までは通所リハと訪問リハのわずかな情報しか集積されていなかったため、情報の解析という作業は現状では行われていないのである。
よって具体的な介護の方法論を示す正式なフィードバックもできない状態が続いている。
そのためLIFE要件のある各加算について、情報提出しているのに8/10の提出分からフィードバックは遅れに遅れて、昨日やっとフィードバック帳票がダウンロードできるようになった。

しかしこれも暫定版・・・遅延した上でのフィードバックがこれである。
この状態で果たして加算は算定できるのかと心配している人がるが、正式フィードバックがされていないのはLIFE側の問題なので事業者側に非はない。よって加算算定に支障はないわけである。
正式なフィードバックがされなければPDCA活用もできないと考えてよいだろう。何しろ活用できる情報や指示事項がないのである。どうしようもない。
この状況を見ると、具体的な改善内容を指摘する本格的なフィードバックは来年度以降になるのではないかと思う。
しかしそれも可能になるのかどうか・・・そのような状況も影響して介護関係者の中で、LIFE(科学的介護情報システム)の評価は割れている。
LIFEによって科学的介護(科学的根拠に基づく介護)が実現されるのだと期待する人がいる一方で、そのようなものは実現せず、国が指示する方向に介護の方法論が向きを変えさせられるだけであると考える人も多い。
例えば、「データが蓄積されていけば、一定の指標、判断基準が揃っていく。それによってサービスの標準化を促しつつ、質の評価ができるようになる」という意見がある。
具体的には栄養状態を改善するための方法論も生まれてくるし、認知症のBPSDを軽減するためには、こういう対応がその人の状態に最も合っているというエビデンスが生まれるというわけである。
しかし認知症の人のBPSDに、一定の方法は通用しないというのは、既に私たちの経験値で答えが出ている問題である。
混乱によって行動・心理症状が出現している人が、落ち着いてくれる方法とは、ある人に通用した同じ方法が、別の人には全く通用しないということがしばしばみられることだ。行動・心理症状が軽減できた事例をつなげても、そこに共通項を見いだせないことが多い。そこからエビデンスを見出すことができるかが一番の問題だ。
LIFEが科学的介護に結び付くという意見に懐疑的な人の中には、『標準化しようとしているのは心身機能の維持・改善と栄養改善の一部の取り組みだけだ』と指摘する人もいる。
だがそれができれば、エビデンスはそこを足掛かりにして広がる可能性もあるのだから、そのこと自体は馬鹿にできるものではない。果たしてそれさえできるかどうかが問題なのだ。
どちらの見方が正しいのかは、今後数年単位でLIFEの情報解析の結果を見ていかねば結論付けられない。
前述したように、今のところLIFEは全国の介護事業者から情報を収集・集積している段階であって、それを解析するには至っていない。慌ただしくフィードバックされた内容も、送った情報を時系列化して全国平均値と比較するだけの、ほとんど意味のないものである。
そのフィードバック内容を見て多くの関係者が、「これをどのようにPDCA活用しろというんだ」と戸惑ったり、憤ったりしている。
本当にPDCAサイクルに載せて、活用できるフィードバックがされるのは、今後しばらく後になるであろうから、介護事業者はその数値にどのような意味があるのかを検討し、全国平均値に近づける必要性があるのか、それはどうしたらよいのかを検討議論した記録を残しておけば、LIFE関連加算のフィードバック要件は満たすと考えてよいだろう。
ただ国がLIFEの運用を開始したということは、結果を出さねばならないという意味でもある。このデータベースにどれだけの費用をかけているかを考えたときに、何らかの成果を挙げねば大問題となるからだ。
ということは多少強引でも、集積したデータを科学的介護に結び付けることが行われかねないということだ。
その時に、国が都合がよい方向に介護事業者が強引に誘導されることがないように、介護事業者側がしっかりと理論武装をしておく備えが必要だ。
国がLIFEを利用して介護事業者に求めているものは、ケアプランに基づいたサービスの提供を形骸化させないというものである。そのケアプランも漫然と同じ内容を機械的に繰り返すだけではなく、定期的に見直してグレードアップさせていくというサイクルを求めているのだ。
そうであれば介護事業者はしっかりそのことを理解し、ケアプランに基づいた高品質サービスの提供を目指すとともに、根拠に基づいた介護の具体的方法論をプランに織り込み、その品質を向上させる取り組みを行っていくことが重要だ。
データでは読み取れない介護の場で見出したエビデンスを、言葉と文章で表現できる現場発信が何よりも求められるのである。
そこで必要となる合言葉は、「きみの介護に根拠はあるか」である・・・というのは、あまりにも手前味噌であろうか。

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