今日はプロ野球ドラフト会議の日である。
毎年多くのドラマが生まれる会議を前に、自分の働き場所を選ぶことができず、職場から選ばれるのを待つ選手の気分はいかがなものだろうと想像してしまう。
もともとこの会議は、金満球団に有力選手が集中して戦力が他の球団と大きく開かないようにするために行われるようになったものだ。勢力バランスを均等化してペナントレースを戦った方が面白く、強いてはプロ野球というスポーツが長く国民やファンの支持を得られるという意味だ。
介護事業もサービスの品質の凸凹が問題となり、最低限の質の担保が叫ばれているのだから、国民に広く支持を得て介護保険制度が長く続くことを目的に、介護職員ドラフト会議を開催して、介護事業者が職員を選ぶようにしたらどうなるだろう。
良い職員を探して、全国の介護福祉士養成校をスカウトが巡回し、金の卵を発掘しつつ、介護職を目指す人は、希望の事業者に選ばれようとして切磋琢磨しながら自らをアピールする。ドラフトにかからなかった人は、「育成契約」を介護事業者と交わし、3年後までにものにならなかったらそのまま退職しなければならない・・・。そんなあり得ない妄想をしてみたが、介護事業者や介護職員の方々には、朗報と言えるニュースが先週にかけて伝えられている。
先週金曜日(10月8日)、岸田文雄首相が衆院本会議で就任後初の所信表明演説を行い、「新型コロナウイルス、そして、少子高齢化への対応の最前線にいる皆さんの収入を増やしていく。そのために、公的価格評価検討委員会を設置し、公的価格のあり方を抜本的に見直す」と述べた。
先の自民党総裁就任演説に引き続き、社会の財の分配政策の柱の1つとして介護職らの賃上げを行うと重ねて明言し、介護報酬の見直しなどを議論していく方針を打ち出したのである。(参照:介護業界は新首相に期待を寄せて良いのか・・・。)
矢野財務次官がこうした政策について、「バラマキ的な政策論議」と批判しているように、今後財務省が強く抵抗することも予想される。
それに対して自民党の高市早苗政務調査会長は10日のNHK「日曜討論」で、財務次官の寄稿について、「大変失礼な言い方」と不快感を示したうえで、「基礎的財政収支にこだわって本当に困っている方を助けない、未来を担う子供たちに投資しない、これほどばかげた話はないと思っている」と批判した。
さらに プライマリーバランス(基礎的財政収支:PB)の黒字化目標について、「一時的に凍結に近い状況が出てくる」との見方を示した。
もともと彼女の政策は、物価安定目標のインフレ率2%を達成するまで国と地方のPBを巡る規律を凍結するというものであり、国の借金問題については、「名目成長率が名目金利を上回っていたら財政は改善していく」・「自国通貨建ての国債なのでデフォルト(債務不履行)も起こらない」という立場である。
内閣を支える与党の有力役員が首相とタッグを組んで、財務省という伏魔殿と戦う姿勢を示したわけである。
介護職員等の賃上げ方針についてはこのほか、後藤厚労相や山際全世代型社会保障改革担当相なども協力・推進の立場で発言しており、今後の新たな財政出動が現実的になってきたように思う。
その具体策は示されていないが、介護職等の収入を増やすために、「公的価格のあり方を抜本的に見直す」としているのだから、来年4月に控えている診療報酬改定や、2024年度の介護・診療ダブル改定における報酬引き上げが見据えられていると思う。
しかしそれは果たして基本報酬の見直しにつながるのか、それとも処遇改善加算の積み上げだけにとどまるのかということが、介護事業経営者にとっては気になることだろう。
後者であれば、直接的な事業収益にはつながらないのだから、いかに収益を確保して、事業を継続させていくのかという戦略を練っていく必要がある。
ただ一つ言えることは、介護サービス利用者の数は、今後最低でも20年以上増え続けるということだ。顧客は今よりもっと増えるのだから、事業を続けていくことによって、介護市場に落ちる巨額なお金を得ることができるのである。
しかし生産年齢人口は減り続けている。そのため外国人労働者の雇用のハードルが下げられ、雇用しやすくなってはいるが、生産年齢人口の減少を補うほどの数の確保は困難である。
よって介護事業経営の最大の課題は、事業を継続・拡大するための労働力の確保であることに何ら変わりはない。だからこそ新しい国の政策の中で、どのような形で介護職員等の収入増加が図られるのかという情報をいち早くキャッチする必要がある。
というのもその方向性や具体策が決まったならば、体力のある介護事業者は、その対策がとられる前に、その対策がとられることを前提に、同じ方向で先行して職員の収入増加策を図る戦略が成り立つからだ。
全サービス事業者に、均等に人材が回るということはあり得ないのだから、そうした事業戦略の下で、人材を囲い込んだ事業者が勝ち組となり、拡大し続ける介護市場で大きな収益を挙げることができることを理解しているだろうか。
ここに対策をいち早く取ることができる事業経営者の下に、有能な人材と巨額な資金が集まっていくことに気づかねばならない。
だからこそ情報は金を支払ってでも、いち早く正確にキャッチする必要があるのだ。
同時に偽物の情報を見抜く力が、介護事業経営戦略部門には求められていることも忘れてはならない。
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