日本人の入浴文化は、他国の人のそれとは大きく異なり、湯船に浸かるという行為が伴ってはじめて、「入浴する」という行為が完結するものであると言ってよい。

勿論、他国にもバスタブはあるし、湯船に浸かるという行為を行う人もいる。例えば台湾は温泉文化が定着している。だが日本人のように湯船に浸かることを入浴行為の一部分と考えているわけではない。

お隣の韓国も湯船に浸かる人は多いが、一方で浴槽がないお風呂も珍しくはないそうであり、日本人の入浴文化とは大きな違いが見て取れる。

アメリカやヨーロッパでもバスタブに浸かる人はいるが、それは少数派で多くの場合シャワーを浴びるだけで終える人が多い。

それは欧米の人々は体臭が強いため、体をきれいにするという目的でシャワーを浴びるからである。お風呂=「体を清潔にする」であり、ゆっくりお湯に浸かるのではなく、効率的に体をきれいにできるシャワーを浴びるスタイルが一般的なのである。

しかし日本人にとって入浴とは、体を清潔に保つだけではなく、お湯に浸かることによってリラクゼーション効果を求めるという考えが存在する。それは湯船に浸かって心身の疲れをとるという考え方であり、身体を清潔にするだけではなく、「風呂を楽しむ」という文化が暮らしに根付いているのである。

それだけ湯船に浸かるという行為は日本人にとって大切な行為である。そのため身体の障害がある人でも湯船に浸かることができるように、機械浴や生活リハビリ浴などというふうに浴槽にも工夫がされ、設備にお金をかけて入浴支援を行っているわけである。

これらの浴槽は、シャワーで身体清潔支援が完結する国では必要のない設備であると言えるだろう。

しかし介護施設で看取り介護を受けている人が、毎日清拭やシャワー浴で身体の清潔が保たれていても、「風呂に入りたい」と口にし、浴槽の湯船に浸かった初めて、「久しぶりに良い風呂をもらった」などと口にするのだから、浴槽はとても大切なのである。(参照:看取り介護対象者の入浴支援を考え直すきっかけになったエピソード

こんなふうに我が国では、看取り介護・ターミナルケアの対象者まで、湯船に浸かってお風呂を愉しませるために様々な工夫を行っているのだ。それが日本の介護スタイルなのである。

それはどんな状態の人でも、「風呂を楽しむ」という権利が保障されるという意味でもある。

ところが表の掲示板に先日、「看取り期の訪問入浴介護を保護課が認めない法的根拠について」というスレッドが建てられ、入院中の方で終末期診断をされた方が、自宅に戻って最期の時を過ごすにあたって、居宅介護支援事業所の担当ケアマネの立案した居宅サービス計画に、訪問入浴介護の導入計画がされていることに行政からクレームがついたという相談がされている。

保護課の担当者の言い分は、「訪問入浴介護は最低限度の生活を維持するためにどうしても必要とは考えられない。看護師が清拭しているのでそれ以上は不要。法に明文化されているわけではないが、これは市の福祉事務所としての裁量の範囲内での判断。他市町村がどういう扱いをしているかは知らないが、当市としては一貫してこの判断基準を順守していく。」というもので、訪問入浴の計画を取り下げないと介護券を発行しないというものらしい。

この発言は、入浴支援という行為を、単なる清潔支援でしかないと決めつけるもので、終末期支援の方に必要とされる、心のケアとかリラクゼーション効果を全く無視した暴論としか言いようがない。

そもそもこの決めつけは、「貧乏人が湯船に浸かって入浴するなんて贅沢だ」・「生活保護という公費を受給しているんだから、人並みの楽しみなんて求めるな」という差別的な価値観としか言えない。

被保護者は、「風呂を楽しむ」権利さえ奪われて当然だとでもいうのだろうか。被保護者で終末期支援を受けている人は、湯船に浸かりたいという希望さえかなえられないという意味なのだろうか。それがあまりに傲慢・不遜な考え方としか思えない。

こんな「狭隘な心」で、市町村の行政の一翼を預かっていることを恥ずかしいとは思わないのだろうか。

こうした決定をして、傲慢な理由を口にする保護下担当者は浅慮を恥ずべきだ。

それにしても行政担当者が、その立場でもって関係者にこうした発言をしていることは、「公的見解」そのものであり、この考え方は被保護者やその計画担当者のみならず、市町村民に広く周知される必要がある。それと同時に、「被保護者には訪問入浴は必要ない」という見解をもつ姿勢について、日本国民から評価を受ける必要があると思う。

だからこそ市町村名をぜひ公開してほしいと思う。そのうえで当事者を交えて、ネット上で大いに議論する必要がある。

なぜならこの問題は、権利擁護・差別のない社会を考えるうえで、極めて重大な問題と言えるからである。決して軽く流してよい問題ではないのである。
日本シニアリビング新聞 電子版で、きみの介護に根拠はあるかを紹介していただきました。ありがとうございます。
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