一国の政権トップが変わるということは非常に大きな出来事である。
それは国の政治体制が変わるのみにとどまらず、様々な仕組みが変わるかもしれないことを意味しており、一人一人の国民の暮らしに直接影響が及ぶ可能性もある出来事でもある。だから決して他人事とは言えない。
一方で我が国においては、「誰がトップに立っても、自分の暮らしに影響はない」・「世の中も大して変わりないだろう」・「結局は同じこと」と冷めた見方をする人も多い。
介護業界も、政治トップが変わるたびに何かを期待し、何かを裏切られてきた歴史がある。そのことを思い浮かべて、過度な期待をしない人が多い。
過去を振り返ると、自民党から民主党に政権交代が行われた際、介護業界には大きな変革の期待があった。
その時政権党となった民主党は野党時代に、「介護職員の給与を月額5万円アップする」と言っていたからだ。しかし政権を取った途端にそれは反故にされてしまった。
その後の介護を巡る政策は、自民党政権時代とほとんど変わりなく、政治家はパフォーマンスに終始するだけで、実質の改革には全く手を出さなかった印象が強い。
つまるところ事実上、この国やこの国の制度を動かしているのは、「官僚」であるということが、改めてクローズアップされる結果となっただけの話である。
そんな苦い思いから、政治に何も期待しないとして、選挙の際に投票に行かない介護関係者は実に多い。そんなふうに政治や政局に興味のない人も数多く働いているのが介護業界の一面でもある。
ところで、100代目の内閣総理大臣となる岸田文雄・自民党新総裁は、政策として社会の『財』の再分配を政策に掲げている人だ。
そのため一昨日の総裁就任後の記者会見では、「公的価格の見直しを訴えてきた。看護師、介護士、保育士の方々の給料は、仕事の大変さに比べて低いのではないか」と指摘したうえで、「こうした方々の給料は国で決められる。国が率先して公的価格を適正に引き上げることを考えたらどうか。それを呼び水として、民間の給料の引き上げにも広げていくことができるのではないか」と発言し、数十兆円の経済対策を行い、広く国民所得を引き上げることを表明している。
歴代の総裁で、就任会見時に介護の話題に触れた人はいただろうか。僕自身はあまり記憶にない。
そういう意味で、すこし毛色の違った会見内容に介護関係者の期待は膨らんでいると思う。SNSでも関係者が、今後の政治は介護業界に順風となるだろうと期待する声がたくさん書き込まれている。
本当にそうなればよいが、果たしてその期待に応える結果が示されるだろうか。
自民党の副総裁には、財政中立を頑として守り、プライマリーバランスの黒字化を目指す麻生太郎氏が座って、長老として睨みを利かせていくのである。そのような中で、介護関連支出の大盤振る舞いといういうことはあり得ないと思うのは僕だけではないだろう。
新総裁が給与所得に関して、看護師と介護職員を同列に語っているのも気になる。看護師は国民の平均給与所得より高い年収を得ているにに比べ、介護職員と保育士の年収は、それを大きく下回っているという相違がある。
それを同列に論じられてしまえば、介護職員の待遇改善は、看護師の高給与に飲み込まれて玉虫色となっていく。その結果、どこかの段階でお茶を濁して終わりということになりかねない。
そんな疑念はぬぐえないものの、コロナ禍の中で頑張っている介護職員の姿もクローズアップされている今だからこそ、新しい政治の光が介護業界を照らすことを期待したい。
アフターコロナは、経済対策がまず優先だという人が多いが、国の経済を支えるのは、国民が安心して暮らすことができるセーフティネットがあってこそのものであることを忘れてはならない。
今日のグローバル社会は、雇用・年金・医療・福祉・介護といったセーフティネットが制度として機能していないと、財政を支える国の市場経済そのものが破綻する可能性が高いもので、国が責任を持って国民の暮らしを支える仕組みを整える必要がある。
そういう意味では、「大きな政府か小さな政府か」・「官か民か」・「競争か平等か」といった旧来の二分法とは別の「第三の道」として、「福祉を拡充する小さな政府」を目指していくことが今後求められるのではないかと思う。
新しい政治には、その方向に舵取りすることを大いに期待したいところだ。
それにしても各報道に見られる、「介護士」という言い方は何とかしてほしい。そんな職名も資格も存在していない。資格を示す言葉なら、「介護福祉士」であるし、職種を示すなら、「介護職員」である。勝手に職名をつけるなと言いたい。
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介護に携わる職に就いていれば無資格でも「介護士」? 努力を重ね介護福祉士などの国家資格を取得しても「介護士」?
もう世間では介護に携わる職に就いている人はすべて「介護士」なのでしょうか。
国家資格を取得しても「介護士」と呼ばれているうちは、賃金の向上は望めない気がします。
masa
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