先週、「身体拘束を伴う看取り介護があってよいのか?」という記事を書いた。

そこでは、ホームホスピスに特化して高齢者を最期まで支える理念でサービス提供していると紹介された、「介護事業社アンビスホールディングス」という事業者の実態が、『看取り介護』と称する身体拘束を伴う不適切ケアを日常的に行っているのではないかと問題提起している。

新聞に掲載されている写真が、日本の介護の暗部がさらけ出される結果になっているのではないかと問う記事内容だ。

それにしてもいま改めて思うことは、身体拘束ゼロ作戦から20年以上経った今日でもなお、このようなお粗末なケア実態が存在することに愕然とする思いを持たざるを得ないといいことだ。そういう会社が堂々と新聞紙面を飾るという状態は、日本のマスメディアの見識の浅さもさらけ出している問題であると言わざるを得ない。

このようなケア実態を放置していることは、すなわち自分自身や自分の愛する誰かが将来、身体と精神の自由を奪われたまま、「哀しい・苦しい」という心の叫びを無視されて、人生の最終ステージを苦しみながら過ごし、その状態のままで死んでいくことにつながる問題である。

偽物の看取り介護・偽物のターミナルケアは、人の死の瞬間まで、人を不幸にさせる由々しき問題であることを自覚して、本物の看取り介護ができる場所を増やしてもらいたい。そのためには是非、『看取りを支える介護実践―命と向き合う現場から』を参照していただきたい。

それにしても身体拘束の定義を理解していない人が多いことは、大いに気になるところだ。

リンクを張り付けた先週の記事を読んだ人で、SNS等でこの問題について、「自分の施設ではこうした対応をしているのですが、身体拘束と言えるでしょうか?」という質問が相次いだ。

そのため改めてここで、「身体拘束に該当する行為・該当しない行為」について考えてみたいと思う。

身体拘束とは、「本人の意思では自由に動くことができないように、身体の一部を拘束すること、または運動を制限すること。」と定義づけられている。

厚労省「身体拘束ゼロ作戦推進会議」が作成した、「身体拘束ゼロへの手引き」では、身体拘束に当たる具体的行為の例を示しているが、人間の行為全てをピックアップすることは不可能なので、ここで示した例は、ごくわずかな具体例に過ぎないし、介護現場ではその例示を参考にできない様々な行為について判断が必要となる。

その時の判断については、行為そのものや道具から考えるのではなく、その目的から身体拘束かどうかを判断する必要がある。

例えばベッド柵にしても、4本柵が身体拘束に当たるから、3本柵にすれば問題ないということにはならない。行動を制限する目的で、ベッドの片側を壁に押し付けて設置し、ベッドから下りられる側に1本柵を付けたとしても、その1本の柵でベッドで寝かされている人が、自由にベッドから下りることが出来ない状態は身体拘束である。

逆に、ベッド環境を上述した状態と同じくしたとしても、それは「部屋の真ん中にあるベッドで寝るのは落ち着かない」などという、ベッドを使っている人の希望であり、柵もつかまって起き上がるために必要なものである場合は身体拘束とは言えない。

あくまで行動を制限しているのか否か、その目的があるのかという総合判断が必要なのである。

それとともに、本人・家族や成年後見人等の同意のみによる行動制限も身体的拘束に該当することも忘れてはならない。

したがって本人が認知症の場合においても、「切迫性・非代替性・一時性」という3要件を満たし、かつ手続き上の手順が適正に取られていない限り身体拘束とされ、それは許されない行為となっているのである。

身体拘束とはどのような行為なのかを議論する場では、「離床センサーは身体拘束に該当するのか」ということが問われてくることがある。

離床センサーは直接的に身体を拘束しているわけではないが、自分が動こうとしたらすぐに誰かが来るような状況が精神的なプレッシャーになり、行動を制限されているという精神的抑圧となり得るという意見である。

しかしそれを言ったら、見守り行為自体が不適切ということになってしまう。それはあり得ないことだ。

離床センサーは、あくまで行動制限しないように安全を担保するための機器であり、その使用が身体拘束とされることはないだろう。

ただし身体拘束廃止の目的は、利用者の暮らしの質の向上なのだから、離床センサーが利用者自身のストレスにならない配慮は当然必要であり、それは認知症の方々の、見守りにも共通して言えることである。

このように個々の問題について、個別に判断しながら、利用者の方々の身体拘束をなくしていくことが大事なのである。

それは将来自分自身の自由が奪われるかどうかという問題と深く関わってくるかもしれない問題なのだから・・・。
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