来月講演依頼を受けたテーマの中に、「身体拘束廃止」がある。

介護保険法によって、介護事業者における身体拘束が原則廃止になって久しいので、このテーマの講演は最近少なくなっている。

しかし2018年の報酬改定時に、身体拘束廃止未実施減算が介護保険施設のみから特定施設とグループホームにも対象範囲に広げられたうえで、要件規定も厳しくされ、減算単位も増額されるという変更が行われている。

それはとりもなおさず、身体拘束がいまだに行われている実態に対して、罰則が強化されたという意味であり、介護事業者の更なる拘束廃止への取り組みが求められているという意味でもある。

よって身体拘束廃止の意識をより高くする研修会はまだ必要であり、改めて身体拘束とはどのような状態を指すのか、それを廃止する意味とは何か、身体拘束という行動制限をしなくて済ますためには、具体的にどんな方法があるのかなどを示すことは大切だ。そう思いながら先週末から講演スライドを作成しているところだ。
身体拘束廃止講演スライド
ところで介護事業者における身体拘束廃止規定とは具体的にないかと言えば、介護保険指定基準ということになり、そこでは以下のようにルールが定められている。

サービスの提供にあたっては、当該入所者(利用者)又は他の入所者(利用者)等の生命又は身体を保護するため緊急やむを得ない場合を除き、身体的拘束その他入所者(利用者)の行動を制限する行為を行ってはならない

この規定ができたのは2000年4月からの介護保険法施行によってであるが、それ以前の介護事業者では、「身体拘束」が普通に行われていたという事実が、この規定創設につながったことは今更言うまでもない。

例えば介護保険創設前の介護施設では、高齢者の転倒、転落防止といった安全面への配慮を理由に、当たり前のように身体拘束がされてきた。

立ち上がりを防止するためのシートベルトは当たり前で、椅子から自力で立ち上がり歩き回る人は、座乗時は常にベルトで椅子に縛り付けられていた。

シートベルトを外してしまう人は、それに加えて車椅子テーブルをつけられて、2重に行動を制限されていた。

ベルトもテーブルも外してしまう人は、角度調整できるスゥイング式車椅子なるもので、角度をつけて起き上がれないように椅子に寝かされていた。フルリクライニング車椅子も、同じ目的で使われていた。

本来座るべき椅子に、そのように寝かされてしまうから、座乗時にできるはずのない仙骨部の褥瘡が簡単にできてしまったりもした。

おむつ外しや弄便(ろうべん)を防ぐために、つなぎ服は普通に介護用品として使われていたし、そのつなぎ服も、チャックを利用者が開けられないように、鍵付きにしたりする行動制限の強化が、「工夫」だと思われていたりした。

このように様々な行動制限が、安全管理の方法として実施されていたのである。

同時にそれは権利侵害・QOLの低下をもたらしてきたという事実は否定できない。それが間違いであると気づかせてくれたものが上記の規定につながる一連の身体拘束廃止議論であり、高齢者の自立した生活を支えることを目的とした介護保険制度が始まるに伴って、介護現場において身体拘束をなくす「身体拘束ゼロ作戦」という取り組みが進められるようになったのである。

そのため現在では、介護施設等でシートベルトを装着したまま車椅子に座らせて放置されている高齢者の姿は見られなくなってきたし、つなぎ服が備品庫からなくなり、介護保険制度以後に就職した職員で、その存在を知らない人も多くなった。

しかし目に見える、「身体拘束・行動制限」は見られなくなっているが、認知症高齢者ん対して、「〜しちゃだめ」というスピーチロックは、様々な場所や場面で見られるし、眠剤や向精神薬を使った行動制限は完全になくなったとは言えない。

点滴や胃婁のチューブを引き抜く人に、ミトン手袋を緊急時の例外規定として使用している時御者もあるが、それは本当に、「緊急性・非代替性・一時性」という3条件に合致しているのか、そもそもその行為につながっている点滴や経管栄養は、本当に必要性があるものなのか。

介護施設で、毎日行列に並ばないと必要な介護が受けられない人は、構想制限されている状態ではないのか。

介護事業者のケアサービスを利用している人の暮らしと、その支援方法を幅広く見つめて、これらの問題を考えなければならないと思う。

手足を縛るだけではなく、心をがんじがらめにすることも「なくすべき行動制限」である。

将来、自分や自分の愛する誰かが、介護サービスの場で泣かずに済むように、身体拘束をしなくて済む方法論を伝えたいと思う。
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