介護人材不足が益々深刻化する中で、募集に応募してきた人を、とりあえず全員採用してしまうという乱暴な介護事業者が存在する。

しかしそんな数合わせをしていると、教育も指導も行き届かない何でもありの人間がたくさん職場の中に居ることになって、職場の秩序が乱れ、人間関係を含めた職場環境は悪化し、ますます人が定着しにくい職場になってしまう。

そこのような介護事業者のサービスの品質は劣化の一途をたどり、顧客に選ばれなくなるだけではなく、不適切サービスが虐待へとつながって事業経営の危機に直面するかもしれない。

そうならないようにきちんと人物を見極めた採用に努めなければならない。

介護人材がどこも不足している現状では、他の介護事業者で働いていたというキャリアが重宝されることも多い。

しかし経験者というだけで、即戦力になるだろうと採用するのも善し悪しだ。

経験というものは、時にバリアにしかならないことがある。きちんとした教育を受けずに、我流で覚えた知識や介護技術が一番だと勘違いしている人は、そこから一歩も抜け出そうとしない。その結果、正しい介護技術を受け入れようとせず、今までその事業者で展開していたサービスの品質に低下をもたらす元凶になりかねない。

そうしないためには、経験はスキルにならないことを前提に、新しい職場のルールや指導を受け入れることができる人材であるのかどうかということをきちんと確認する必要がある。採用決定前に新たな職場での仕事のルールや方法に従うように約束してもらう必要があるのだ。

そして採用時の約束事がきちんと守られているかというチェックを採用後に行う必要もあり、守られていない場合は、合理的理由による使用者の解約権を行使する必要もあるだろう。

だからこそその使用者側の権利を行使できる「試用期間」を就業規則に定めている必要がある。(※試用期間は労働法規上、定めなければならないという規定がないため、定めおいていない事業者が少なからず存在する。)

そもそも転職する人には、前の職場をやめなければならなかった理由がある。それが前の職場に問題があって、適切なサービス提供ができる環境になかったとか、その人材のスキルに見合った待遇や環境を与えられなかったというならともかく、その人物そのものの問題で、周囲と軋轢しか生まなかった結果だとか、そもそも介護の仕事に向いていないというなら、その経験はあるだけ邪魔でしかない。

そこの見極めは難しい。採用面接で真実の退職理由を明かす人はほぼいないといってよいからだ。だがそのことをできるだけきちんと調べなければ大変なことになる。だがどうやって調べればよいのかも悩ましいところだ・・・。

こんな例もあった。・・・熊本県のとある有料老人ホームで、頑張っている介護職員の業務負担を減らそうとして増員のための職員募集をかけたところ、近隣の介護施設で働いている経験者が、「スキルアップしたい」という理由で応募してきたケースである。

しかもその職員から、「現在の職場に良い人材が別にいて、その人もスキルアップの転職を希望している」という話があり、それならということで、その応募者が働いていた施設を退職した3人を同時雇用したという。

結果、その3人は新しく働くことになった施設で派閥のようなグループを創り、他の職員の働き方に口を出すようになったという。その結果、職場全体の仕事の質が落ち、人間関係に軋轢を生みだしただけではなく、陰でその3人が中心となり、利用者虐待を行っていたことが明らかになり、新聞報道されたことで経営危機に陥ったのである。

このような問題があるから、どこかの事業者を一斉退職した人を、新たに雇用するときには採用側に慎重な姿勢が求められる。少なくとも派閥やグループとなり得る状態の人を一斉雇用することは避けたいものである。

介護事業者の多くは、良い人材を確保するために、面接でしっかり人物確認して、慎重に人材選びを行うことを心掛けているだろう。

しかし面接ですべての応募者のスキルを見極めるなんてことは不可能だ。そのため採用後の教育期間や、前述した試用期間をきちんと定めて、その間に人物を見極める努力は不可欠である。

そのためには組織全体で、採用部門と担当者は、募集と採用だけに力を注ぐのではなく、採用後の教育と人材の見極めまで守備範囲であることを確認事項としておく必要がある。

採用を巡る話題としてつい最近、介護とは直接関係のない民間営利企業において、就職希望者が匿名で使っているSNSの「裏アカウント」を探り出し、その投稿内容を調べて報告するよう業者に依頼し、その内容を採用基準としていたという問題が報道された。

その報道は、採用希望者に隠してそうした内容を調べることはプライバシーの侵害などにつながる不適切調査ではないかと批判的なものであったが、仮に採用希望者に承諾をとって、裏アカウントを含む書き込みを調べることは、採用希望者がNOといえる状態ではないと思えるので、それも不適切ではないかという意見が多い。

このことについて厚労省は、「本人の適正・能力に関係のない情報が把握されかねず、採用に影響する懸念があり望ましくない」と見解を述べている・・・。

しかし採用する側とすれば、採用希望者がSNSでどのような発言をしているかは大いに興味があるところだ。そこには、「適正・能力に非常に関係深い情報」が含まれていることが多いからだ。

どのような価値観を持つ人物なのかが見て取れることが多いのがSNSの書き込みである。

だからこそ対人援助という仕事を行おうとする人物が、人に対する温かなまなざしを持っているのか否かを確認するためにSNSを確認してみることは、決して意味がないことではないように思う。

裏アカウントを調べる技術はないが、採用するか否かを判断する際に、採用希望者のSNSはないかと、一応同姓同名のアカウントを調べることは、あって当然の方法ではないかとも思う、今日この頃である。

どちらにしても採用希望者の、「人材の見極めをどうするか」という今日のテーマは、永遠の課題でもあり、決定打がなかなか見つからない問題でもある。

これが決め手になるという方法をお持ちの方は、是非仲間に向けて情報提供してほしいものだ。

僕の場合は、この点について採用・教育部門が絶え間なく教育を行うとともに、その中で人物評価を繰り返す以外にないと思っている。

そして経営者や管理職には、何か特別なスキルを持った人を評価するだけではなく、遅刻しないで出勤し、始業時刻と同時にコツコツと目立たない作業(利用者への気配り・整理整頓等を含む)や他の職員を助ける行為などをやり遂げている、「凡事徹底」できる人を評価するという姿勢が、良い人材が定着し、その人材を見習ってさらに後進が育つという職場環境が創りだされるのだろうと思う。
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