介護保険以前の訪問介護は、市町村からのホームヘルパー派遣事業として実施されていた。

そこではサービス利用者に対する、「散歩」の付き添いは普通に行われていた。身体の障害を抱える高齢者にとって、散歩は心身をリフレッシュし、機能を維持するために当然必要な介護だと考えられていたためである。

しかし介護保険制度施行を機に、散歩は過剰なサービスで保険サービスとしてそぐわないとされるようになった。そのため訪問介護員は利用者に対して、「訪問介護で散歩の付き添いは出来ないのです。それはこの法律の決まりなので、どうしても散歩の介助が必要なら、保険外で全額自己負担になるのですが、それでも良いですか」と説明することが仕事として求められた。

今まで気持ちよく散歩に付き添っていたヘルパーからは、今更そんな酷なことを利用者の方々に言えないと訴えられるケースも相次いだ。散歩の付き添いが訪問介護として、保険給付の対象にならないというのはおかしいという声が全国から聴こえてきた。

この訪問介護の散歩問題が片付いたのは、介護保険制度がスタートして9年も経った後のことだ。

2009年1月の通常国会の参議院における審議で、首相に対する質問答弁書として公式見解があらためて示されたからである。

その内容は「訪問介護員による散歩の同行については、適切なケアマネジメントに基づき、自立支援、日常生活活動の向上の観点から、安全を確保しつつ常時介助できる状態で行うものについては、利用者の自立した生活の支援に資するものと考えられることから、現行制度においても、介護報酬の算定は可能である。」というものである。

これによって散歩は保険給付サービスの対象となることが確定したわけであるが、同じように自立支援や日常生活活動の向上の観点があるとしても、「趣味活動」の参加支援は現在も認められてはいない。

医学的・治療的リハビリテーションエクササイズは、それを嫌がる利用者に無理やりさせても保険給付対象になり、加算報酬さえ受けられるのに、生きるために行きたがっている趣味の場所への参加支援にお金を給付しないのが介護保険制度なのである。

しかし人間は機械ではないし、介護は身体のメンテナンスでもない。

単なる楽しみを得る機会を持つことは罪なのか・・・。それは何故保険給付対象ではないのか。人はパンのみで生きているにあらずである。

趣味や楽しみの機会に参加支援されることで、心が晴れやかになって、生きる喜びが得られるならば、それが自立支援や日常生活活動の向上につながるのだから、公費や保険料を使うのにはそぐわないという論理は破たんしている。

心がウキウキしてこそ、身体も元気になろうというものだ。

国や役人は、自立支援=医学的リハビリテーションと考えているようであるが、病気がないのに心がうつうつとして、心を病んで引きこもっている人に一番必要なものは、医学的・治療的リハビリテーションエクササイズではないという、ごく当たり前のことを理解してほしい。

もっと人の生きがいにつながる支援方法が模索されてよいと思う。アセスメントはその為に行われるものだと思うのである。

そういう意味で、介護保険制度は役人目線の駄目な制度である。

しかしそれがなくなっては、この国の高齢者介護は消滅してしまうという意味もあり、ないよりはあった方がマシな制度となっている。

今後の制度改正では、ここを少しでも改善していけるのか。単に制度を維持するだけで終わってしまうのか・・・。それは介護事業者や、そこで働く人々の情報発信力にかかってくる問題なのかもしれない。

もっと国民全体にアピールすべき問題がないだろうか・・・。

だからこそ介護の場で、私たちと利用者の間に刻まれる様々なエピソードをもっとたくさんの人が発信してほしいと思う。

人が人と関わる中で展開される喜怒哀楽の史劇が、この国の介護の在り方を考えるうえで一番大事な根拠になるのではないだろうか。そこにある真実だけが、人の暮らしを護るヒントになってくるのではないだろうか。

だから介護関係者は決して口を閉ざしてはならない。そして発信する情報とは、事実でなければならない。

感動や笑顔のエピソードに限らず、慟哭や哀しみがなぜそこで生まれているのかも発信してほしい。

介護支援で救われない人々の切実な声をも発信してほしい。介護という名の暴力が存在することも明らかにしてほしい。

そうした悲劇は決してマジョリティーではないし、多くの介護事業者は、利用者の暮らしを護ろうとしているのだけれど、その網からこぼれる人々が存在し、そこから零れ落ちる理由も制度の穴であったり、人の悪意であったり、あるいは悪意のない感覚麻痺であったり、様々な問題が存在することを明らかにしてほしい。

私たちが何を行っているかという事実、そこで利用者がどうなっているのかという事実・・・その中からしか真実は浮かんでこない。

SNSはその為に利用してほしと思う。
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