介護事業者の職員の目の前には、日々の暮らしを営むための支援を求める利用者の存在がある。

そのため一部の介護事業者は、その人たちを放っておいて、呑気に勉強している暇はないと言い訳しながら、業務に追われて研修やOJTの時間が取れない状態を放置している事業者もある。

しかし必要な知識や技術を含めた正しい情報を職員に与える努力を怠るところで、介護の質など存在しなくなる。

そこでは、要介護者等がその日一日を無事に過ごすことが出来さえすればよいと言うがごとく、劣悪な暮らしに甘んじさせる不適切介護も出現し、間違った方法で人権や尊厳が奪われる続ける状態も生まれてしまう。

対人援助に関連する職場における教育訓練とは、人権と暮らしを護ることに直結するものであり、利用者対応を優先させなければならないという理由で、教育機会を設けようとしないことは許されざる怠慢なのである。そのための勉強とは決して、「呑気に行うもの」ではなく、必要不可欠な学習機会なのである。

そのため各事業者ごとに様々な工夫がされていようと思う。

その一例として、介助動作を実演する動画を作成し、介助のポイントや注意点などをテキストでフォローするという方法で、時間や場所を選ばず研修できるようにしている職場もあり、こうした動画を作成し、販売している営利事業者もある。

そうした営利事業者が、「動画を視聴することによって、OJTができます」と営業をしているが、それは大いなる間違いである。介護事業者の方々は、そのような宣伝に惑わされてはならない。

OJTとは、職場の上司や先輩が部下や後輩に対し具体的な仕事を通じて仕事に必要な知識・技術・技能・態度などを意図的・計画的・継続的に指導し、修得させることによって全体的なスキルを育成するすべての活動を指す。

この際、指導根拠となるOJTツールもなく、意図もあいまいで、計画性もなく指導者によって異なる指導が行われておれば、それはOJTとは言えず、金魚の糞のように先輩についてみて覚えろ的なやり方で、動作を教えているだけという状態に陥ってしまう。

それを防ぐために、介助動作を実演する動画を利用することは問題ないし、それで介護方法の統一化は図ることができればいうことはない。

しかしOJTとは、座学で見たこと、聴いたことを、実地場面で自分が行う行為として昇華させることをいう。視覚情報や耳学問が正しく行為として実施できるようにする過程を指すのである。

動画視聴で知識を得ることは、あくまで座学である。それを先輩職員等のアドバイスができる場面で、実行に移すのがOJTなのだ。そこでは基本動作を行うための、「コツ」とか、利用者ごとに異なる感情に相対する際の、「工夫」とかといった、経験則からの助言が必要となる場面が多々あるわけだ。

よって動画を購入して、いつでも視聴できるからと言って、OJTのシステムが整っていると勘違いしてはならない。

その動画の内容が事業者全体に浸透して、それに沿った指導教育や助言が適切に行うことができて始めて、教育システムと言えるのである。

また介助動作を実演する指導動画があり、それを時と場所を選ばずに誰もが観ることができるという状態は、教育効果としては疑わしい。

いつでも、どこでも観ることができるから、あえて今観る必要がないという意識が広がりやすく、全員が一堂に介して視聴する機会と異なり、個別で動画を観るということは、自分の都合の良い時に、「ながら視聴」してしまって、頭に残らないということも多い。

そこに何時でも観ることができる動画があるからこそ、一度視聴するというアリバイ作りの意識が優先されてしまい、動画で伝えられるべき知識や技術が、十分に浸透しないという結果に終わることも多い。

だからこそ動画を利用するのは良いが、それを視聴する機会をきちんと作って、視聴後のデスカッションが行われるなど、参加者がそれなりの緊張感を持つことができ、研修と意識できる方法が望ましいと言えるのである。

動画視聴だけではOJTにはならないことを理解し、動画研修というのは、個人に視聴機会を丸投げしてしまえば、教育効果は薄くなることを理解したうえで、最も有効な利用方法を考えてほしい。

そもそも教育とは、「ある人間を望ましい姿に変化させるために、身心両面にわたって、意図的に働きかけること」を言うのであって、機械にそんな働きかけは出来ないのである。
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働きかけを行う、「人」の存在なしでは、教育効果は生まれないのである。この部分はICTにもAIにも置き換えることは今のところ不可能である。
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